続・在宅勤務の将来
はじめに
前稿(増島(2025))では米国の在宅勤務(Working from Home(WFH))の動向やその影響に関する実証分析を紹介した。本稿では、米国と対比しつつ、日本のテレワークの動向とその影響に関するデータを紹介し、次稿で日本におけるテレワーク普及の課題を論じる。なお、テレワークは在宅勤務よりも広い概念である[i]。ただし、テレワークの大宗は在宅勤務であり、日本ではアンケート調査等でテレワークを対象とすることが多い。そのため本稿では在宅勤務とテレワークを同義で用いる。
1.日本でも定着するテレワーク
日本においてテレワークを実施している人の割合を調べたアンケート調査はいくつかあるが、例えば、調査頻度の高い大久保・NIRA(2025)で全国のテレワーク利用率(1週間の調査期間の間にテレワークを利用した人の割合)の推移を見ると(図1)、新型コロナウイルス感染症の緊急事態宣言が最初に発出された2020 年4~5月に25%まで急激に上昇した。6月の緊急事態宣言解除後に17%まで低下した後はおおむね横ばいで推移した。2023年に入って新型コロナウイルス感染症が5類へ移行するのと前後して13%まで低下した後は再び安定的に推移している。東京圏のテレワーク利用率も同様の動きとなっているが、水準は全国を大きく上回っている。
図1 テレワーク利用率
(備考)大久保・NIRA(2025)による。緊急事態宣言は東京都に発令されていた期間。
同様の傾向は、総務省(2025)、国土交通省(2025)、日本生産性本部(2025)、パーソル総合研究所(2024)でも確認することができるが、鉄道の利用状況にも現れている。テレワーク利用率の高い東京都心を走る東京メトロの利用者数の推移を見ると(図2)、新型コロナウイルス感染症の流行の影響で、2020年度には定期券利用者数、それ以外の利用者数ともに大幅に減少した。その後、流行の収束とともに利用者数は回復してきているものの、定期券以外の利用者数がコロナ禍前の2019年度を回復しているのに対して、定期券利用者数は2019年度を20%程度下回っている。定期券利用者の減少は、少子化による通学定期券利用者の減少などによる面もあるが、テレワークの普及により毎日出社する必要がなくなった人が増えたことが影響している。
このように、テレワーク利用率は、新型コロナウイルス感染症の流行の収束とともに低下してきており、最近では、日本でも大企業を中心にテレワークを見直す動きも見られている。そうした中でも、テレワーク利用率は、コロナ禍前の2020年1月に比べれば2倍を上回る水準を維持しており(前掲図1)、米国同様、テレワークは一定程度定着していると言えよう。
2.低い日本のテレワーク利用度
もっとも、米国に比べると、日本のテレワーク利用度は低い。日本と米国のテレワーク実施率を比較した調査は多くないが、野村総合研究所が2022年7~8月に実施した調査では、テレワーク実施率(過去1カ月に最低1日はテレワークをした人の割合)は米国では49.9%であるのに対して、日本では19.0%と報告されている(森(2023))。
テレワークの頻度については、前稿でも紹介したAksoy et al.(2023)が、2023年に調査を行なっており、1週間当たりの在宅勤務の日数は、大卒が米国で1.8日、日本で0.7日、高卒は米国で1.4日、日本で0.5日と報告している。同論文は産業別のテレワークの頻度も報告しているが、大久保・NIRA(2025)の産業別テレワーク利用率の結果と比較すると、水準を直接比較することはできないものの、テレワークの導入が容易な通信情報業、情報サービス・調査業、金融・保険業などでは高いが、医療・福祉、飲食業・宿泊業、運輸業、卸売・小売業など現場での対面サービスが必要な業種では低いといった特徴は日米で共通している。
テレワークの頻度の分布を日米同時に調べた調査は見当たらないが、国土交通省(2025)によると、日本では、雇用者のうち6人に5人以上の人が過去1年間にテレワークをしたことがなく、毎日(週5〜7日)実施している完全在宅勤務の人は3%弱、在宅勤務とオフィスへの出勤を併用しているハイブリッド勤務の人は13%程度となっている。これと直接比較できるわけではないが、Survey of Workplace Attitudes and Arrangements(SWAA)によれば、米国では、毎日出社している人の割合は6割程度であり、1割強の人が完全在宅勤務、残りの3割弱の人がハイブリッド勤務をしている。
このように、調査機関や調査時期によって数値にばらつきはあるが、日本は米国に比べてテレワークの利用割合が小さく、実施頻度も低い傾向にあり、テレワークの普及が遅れていると言えよう。
3.在宅勤務によって生じている現象
米国では、在宅勤務の普及によって、都市構造、労働供給、さらには犯罪や余暇といった生活の様々な側面にも影響が生じていることが指摘されている(Bloom(2025))。こうした影響が日本でも見られるか確認する。
(1) 「ドーナツ化現象」は一時的で限定的
在宅勤務の普及により、米国では主要都市の中心部から郊外への人口移動が大規模に観察されており「ドーナツ化現象」と呼ばれている。日本についても確認するため、通勤をしている人が多い25歳から60歳までの人について、テレワーク比率の高い東京都から近隣の3県(埼玉県、千葉県、神奈川県)への転出者の動向を見てみる(図3)。新型コロナウイルス感染症の流行が拡大した2020年と2021年には、感染リスクの高い都市部を避け、より広い住居や自然豊かな環境を求める動きが強まって転出者数が増加した。しかし、2022年以降は、パンデミックが収束し経済社会活動が正常化するにつれて転出者数が減少した。2024年にはコロナ禍前の2019年の水準に概ね戻っており、東京から近郊への転出者が増加する動きは落ち着いてきている。東京都の人口移動については、進学や就職のために若年層(20歳代)が転入し、子育て世代(30歳代、40歳代)が転出する傾向にある。そのため、東京都内の住宅価格や賃料の上昇が子育て世代の近郊への転出者増加の要因となっているとの指摘(内閣府(2024))もあるが、パンデミック後の転出者増加が一時的であったことから、テレワークの普及とその揺り戻しも一定程度影響を及ぼしていると考えられる。ただし、全体として見ると、テレワークが転出を促す効果は一時的で限定的なものに留まったと言えよう。
図3 東京都から近隣3県への転出者数(25〜60歳)
(備考)総務省「住民基本台帳人口移動報告」による。近隣3県は、埼玉県、千葉県、神奈川県。
一方、東京都心(千代田・中央・港・新宿・渋谷の都心 5 区)のオフィス空室率(三鬼商事マーケットデータによる)は、コロナ禍前の2020年1月には1%台半ばであったが、2021年半ばにかけて6%台半ばまで上昇した。こうしたオフィス需給の悪化は、コロナ禍による景気悪化でオフィス需要が減少する一方、コロナ禍前に計画されていた開発が進捗して新規供給が増加したことによるところが大きい。ただし、テレワークが拡大して出勤者が減りオフィススペースを縮小する企業が増えたことも要因として指摘されている(小林(2021))。コロナ禍が収束して経済活動が正常化し、景気が回復するにつれて就業者数の増加が続く中で、オフィス空室率は2024年に入ってようやく低下を始めたが、現在も4%程度と高止まっている。オフィス需給の改善ペースがコロナ禍前に比べ緩やかなものになっている背景には、テレワークの普及などを背景にオフィス機能の見直しが進んでいることも影響していると考えられる。
(2) 障害者や女性の労働参加を後押し
日本においては、民間企業における障害者の雇用者数は過去20年以上の間、継続的に増加している(厚生労働省(2024))。これは、法定雇用率の引上げなどを通じて政策的に障害者雇用を促進してきたためである。コロナ禍にあっても、2019年の56.1万人(実雇用率2.11%)から2020年には57.2万人(同2.15%)、2021年には59.2万人(同2.20%)へと増加している。これがテレワークの普及とどの程度関連しているかは判然としないが、高齢・障害・求職者雇用支援機構(2023)の障害者を対象とした意識調査は、テレワークの普及が通勤の困難を軽減し、障害を持つ人々の労働参加の機会を広げる要因となり得ることを示唆している。企業にとっても、障害者のテレワーク雇用は、障害者をオフィスで雇用する際に必要となる環境の整備費用が削減できること、優秀な人材を全国から採用できること、職場への定着を促す効果が期待できることなどのメリットがあると考えられる。
生産年齢(15~64歳)の女性の就業率は、コロナ禍の影響で2020年には小幅に低下したが、それ以外の年は過去20年間上昇が続いている。女性の就業率上昇には、社会の意識の変化、政府の女性活躍推進施策など複数の要因が影響しているが、テレワークの普及もその一因となっていると考えられる。厚生労働省が実施した「仕事と育児等の両立支援に関するアンケート調査」(日本能率協会総合研究所(2023))では、育児や介護を理由に離職した人のうち、約3割が「テレワーク制度があれば仕事を続けられた」と回答している。このことは、テレワークが育児・介護と仕事の両立を可能にすることで、女性の就業継続や労働参加を後押しし得ることを示している。もっとも、女性は男性に比べてテレワークの頻度が低い傾向が見られる。国土交通省(2025)によれば、男性雇用者のテレワーク実施率が31.2%であるのに対し、女性は16.9%にとどまっている。女性は非正規雇用比率が高く、非正規雇用者はテレワークの機会が少ないため、女性のテレワーク実施率が低くなる要因となっている。また、テレワークが可能な業種(情報通信業、専門・技術サービス業など)に男性が多く、テレワークが難しい業種(医療・福祉、宿泊・飲食など)に女性が多いことも影響している。最近では女性の正規化も進んでおり、テレワークが育児や介護と仕事の両立を可能にし、これまで時間的・地理的制約で就業できなかった女性の労働参加が進むことが期待される。
(3) 犯罪を抑止
米国では、在宅勤務の普及率が高い地域で強盗事件が減少していることが報告されている(Matheson et al.(2023))。日本の侵入窃盗[iii]の件数について、空き巣などの住宅を対象とするものとオフィスや工場など非住宅を対象とするものに分けてその推移を見てみる(図4)。長期的にはいずれも減少傾向にあるが、コロナ禍前の2019年とその後の推移を比較すると、住宅対象の侵入窃盗の件数が低位で推移しているのに対して、非住宅を対象とする侵入窃盗の件数は2022年以降増加に転じ2019年の水準まで戻っている。このことは、テレワークの普及が犯罪の抑止に寄与していることを示唆している。テレワークの増加によって、より多くの人々が自宅にいるようになり住宅対象侵入窃盗の機会が減少する一方、オフィスや工場にいる人が少なくなり非住宅対象侵入窃盗の機会が相対的に増加したと考えられる。
図4 侵入窃盗件数
(出典)警察庁「犯罪統計」による。
(4) 「ゴルフ効果」は小幅
アメリカでは、在宅勤務の普及により、平日の余暇活動が活発になっており、特にゴルフ人気が顕著で「ゴルフ効果」と呼ばれている。日本でも、新型コロナウイルス感染症の拡大により、密を避けられ感染リスクが低い屋外レジャーとしてゴルフが注目され、2020年から2022年頃にかけて利用者数が増加した。2023年に入ると、新型コロナウイルスの感染症法上の分類が5類に変更され、行動制限が緩和されたことで、レジャーの選択肢が多様化した。これにより、ゴルフ以外のレジャーに需要が分散し、ゴルフ場利用者数は前年比で減少に転じたが、概ね横ばい圏内の動きとなっている。2024年においても利用者数はコロナ禍前の2019年の水準を上回っている(2024年は2019年比で10.9%増)。「ゴルフ効果」を確認するため、平日と休日に分けて利用者数の増減を見ると(図5)、平日の利用者数の方が休日のそれよりも強い動きとなっている。米国ほどではないが、日本でも「ゴルフ効果」が観察されている。ただし、テレワークの影響だけでなく、働き方改革による休暇取得促進の取組みも影響していると推測される。
図5 ゴルフ場利用者数
(出典)経済産業省「特定サービス産業動態統計」による。
おわりに
本稿では、日本のテレワークの動向とその影響を米国と比較した。日本でもテレワークが普及し定着しているが、テレワークの利用は米国より低位にとどまっている。日本でも、大都市から郊外への人口移動の増加、都心のオフィス空室率の上昇、障害者や女性の労働参加の増加、空き巣などの侵入窃盗の減少、ゴルフなどの余暇活動の活発化といった現象が観察されているが、テレワーク拡大の影響は必ずしも大きくない。日米の働き方や企業風土などの違いがテレワークの浸透度に影響を与えているものと考えられる。
日本において、テレワークは、働き方を多様化し、国民のウェルビーイングの向上に寄与するとともに、労働参加を促進して経済成長を高め、地方への労働移動を促進して地方創生にも資することが期待されている。次稿では、テレワークが国民の生活満足度や生産性に与える影響について、アンケート調査や実証研究を紹介し、日本においてテレワークを普及させるための課題について考察する。
[i] テレワークとは、ICT(情報通信技術)を活用し、働く場所を問わず、遠隔で仕事をする働き方のことである。自宅を就業場所とする在宅勤務のほか、モバイルワーク(移動中の電車やカフェ、顧客先などでパソコンなどを活用して業務を行う働き方)、サテライトオフィス勤務(企業が設置したサテライトオフィスやコワーキングスペースなどを就業場所とする働き方)などを含んでいる。総務省(2025)によれば、テレワークの9割が在宅勤務である。
[ii] 東京地下鉄株式会社「2026年3月期月次旅客運輸収入の推移」によると、2025年4月の旅客運輸収入は、定期が前年同期比3.4%増、定期外が同3.7%増となっており、傾向に変化はないものと見られる。
[iii] 「侵入犯罪」とは、住宅などの建物に侵入して行われる犯罪で、凶器等を家人に示すなどして金品を強奪する「侵入強盗」と、金品を盗む「侵入窃盗」及び「住居侵入」をいう。ここでは、「侵入窃盗」のうち一般住宅をねらう「空き巣」、「忍込み」、「居空き」を「住宅対象」、それ以外を「非住宅対象」と分類している。
(参考文献)
Aksoy, Cevat Giray, Jose Maria Barrero, Nicholas Bloom, Steven J. Davis, Mathias Dolls, and Pablo Zarate. 2023. “Working from Home around the Globe: 2023 Report.” EconPol Policy Brief 53.
Bloom Nicholas. 2025. “The Future of Working from Home.” AEA annual meeting.
Matheson J, McConnell B, Rockey J & Sakalis A. 2023. “Do remote workers deter neighborhood crime? Evidence from the rise of working from home.” The Sheffield Economic Research Paper Series (SERPS), 2023020.
慶應義塾大学経済学部大久保敏弘研究室・(公財)NIRA総合研究開発機構 (2025)「第2回デジタル経済・社会に関する就業者実態調査(速報)」
厚生労働省(2024)「令和6年障害者雇用状況の集計結果」
高齢・障害・求職者雇用支援機構(2023)「テレワークに関する障害者のニーズ等実態調査」
国土交通省(2025)「令和6年度テレワーク人口実態調査-調査結果-」
小林俊二(2021)「経済の動き~国内主要都市オフィス市場の展望 2021」三井住友信託銀行調査月報2021年3月号
総務省(2025)「令和6年通信利用動向調査報告書」
内閣府(2024)「日本経済レポート(2023年度)」
日本生産性本部(2025)「第 16回 働く人の意識に関する調査」
日本能率協会総合研究所(2023)「厚生労働省委託事業 令和4年度 仕事と育児の両立等に関する実態把握のための調査研究事業 仕事と育児等の両立支援に関するアンケート調査報告書」
日本民営鉄道協会(2024)「大手民鉄鉄道事業データブック 2024大手民鉄の素顔」
日本民営鉄道協会(2025)「大手民鉄16社2025年3月期決算概況および鉄軌道事業旅客輸送実績」民鉄協ニュースNo.1
パーソル総合研究所(2024)「第九回・テレワークに関する定量調査」
増島稔(2025)「在宅勤務の将来」SBI金融経済研究所WEBレポート(5月26日)
https://sbiferi.co.jp/report/20250526_1.html
森健(2023)「2022年の日米欧のテレワーク状況と将来展望」野村総合研究所