米国暗号資産規制(CLARITY Act)の成立に向けた情勢分析
―6月末時点の直近情勢と立法プロセス―
はじめに
米国の暗号資産・デジタル資産市場に包括的な法的枠組みを導入することを目的とする「Digital Asset Market Clarity Act of 2025(通称:CLARITY Act / クラリティ法案:下院法案番号 H.R.3633)」は、2025年7月17日に下院で294対134の圧倒的な超党派の賛成により可決された後、上院での審議に移っている。本法案は、デジタル資産の発行・流通・取引に関するSEC(証券取引委員会)とCFTC(商品先物取引委員会)の管轄分担を明確化し、従来の「執行による規制(Regulation by Enforcement)」に依存した不透明な制度環境を、立法によって抜本的に整理しようとするものである。
2026年5月14日には、上院銀行・住宅・都市問題委員会(以下、上院銀行委員会)は同法案を15対9の賛成多数で可決し、上院本会議への上程に向けて大きく前進させた。採決では、共和党委員の強固な結束に加え、民主党からも2名(ルーベン・ガレゴ、アンジェラ・オルサブロックス両委員)が賛成に回るなど、実質的な超党派の支持を取り付けた。続く同年6月1日には、ティム・スコット上院銀行委員長による本会議への正式報告(Reported)を経て、上院議事日程(Calendar of Business)上の「Calendar No. 423」に登録された。
ただし、この委員会通過および本会議への報告(カレンダー登録)は、成立に向けた一段階にすぎない。成立に向けては、依然として複数の厳格な立法手続きが残されている。
実務面では、ガバナンスの現場(規制当局)による地ならしが先行している。SECは2026年3月17日、暗号資産に関する初めての包括的整理を示した連邦証券法(1933年証券法等)の解釈指針(Release No. 33-11412)[1]を公表し、CFTCもその解釈と整合的に商品取引所法を運用する方針を示した。この両機関による共同方針は、法案成立時の「ソフトランディング(円滑な新体制移行)」を可能にする実務的な基盤を整える役割を果たしているが、行政機関による解釈であり連邦法ではないため、市場構造の最終的な安定にはCLARITY Actの成立が不可欠である。
2026年6月末現在、CLARITY Actは着実に前進しているものの、成立の見通しは依然として不透明である。本稿では、現在激しい議論が交わされている4つの主要論点を整理した上で、成立までの立法手続きロードマップと、実務や市場への影響について多角的に分析する。
CLARITY Actにおける4つの主要論点
CLARITY Actの審議では、暗号資産業界が求める制度明確化・イノベーション促進と、伝統的金融機関(TradFi:Traditional Finance)、規制当局、法執行機関が重視する金融安定・消費者保護・犯罪防止との間で、複数の対立軸が生じている。
各論点における対立構造と妥協の方向性は、以下のマトリクス表の通りに整理できる。
【4大主要論点における対立と妥協着地点】
| 主要論点 | 推進派(暗号資産業界)の主張 | 慎重派(伝統的金融業・当局)の懸念 |
法案における妥協着地点 |
| (1)利回り規制 | イノベーション促進とユーザー還元のため、柔軟な報酬提供を認めるべき。 | 商業銀行からの預金流出を招き、地域金融・融資能力を破壊する。 | 受動的利回りは厳格に禁止するが、決済等の活動に紐づく活動連動型報酬は許容。 |
| (2)管轄権の切り分け | 証券(SEC)とコモディティ(CFTC)の二重規制を解消し、予見可能性を確保。 | 投資家保護のルールが緩み、規制の抜け穴(裁定取引)が生じる懸念。 | デジタルコモディティ等の定義を設け、両機関の管轄・役割分担を制度化。将来の技術発展に対応するためのイノベーション調査も義務付け。 |
| (3)DeFi開発者免責 | 顧客資産を預からない非管理型開発者にまで重い送金業者責任を課すべきではない。 | 免責範囲が広すぎると、KYC/AML上の深刻な監督ギャップ(規制の空白)を生む。 | 資産管理・移転を行う主体には厳格なAML義務(BSA等)を課し、非管理型開発者は送金規制から免責。 |
| (4)倫理・利益相反 | 政治的な駆け引きにより法案の上程や可決が遅れることを懸念。 | 公職者が暗号資産関連事業やトークン保有で個人的利益を得る懸念。 | 超党派の支持(60票)獲得のバーターとして、選出公職者向けの厳格な倫理条項の調整を継続。 |
論点(1):ステーブルコインの利回り・報酬規制
論点は、ステーブルコイン保有者への利回りや報酬の提供を、どこまで認めるかである。関連法案であるGENIUS法によって、発行体による受動的な利払い(利用者がステーブルコインを保有しているだけで、自動的に金利や報酬が支払われるもの)はすでに規制されている。そのため今回は、発行体以外の取引所やブローカー、関連事業者等が提供する報酬、特に活動連動型報酬(特定の具体的な行動<アクション>を起こしたことに対する対価として支払われる報酬)の範囲が焦点となっている。この点については、行政府側の楽観的な分析と、それに対する銀行業界からの真っ向からの否定が対立している。
政府機関(CEA)による楽観的な経済分析(議論の発端): ホワイトハウスの大統領経済諮問委員会(CEA)はモデル分析を通じ、ステーブルコインの利回りを禁止したとしても、銀行融資を保護する効果は極めて微小であると主張[2]している。試算では、利回り禁止による銀行の融資総額の増加はわずか0.02%程度(ほぼ誤差の範囲)にとどまり、融資保護としての効果はほとんどない。むしろ、利回りを一律に禁止することは消費者が競争環境から得られるはずの利益(リターン)を損ない、社会的損失(コスト)をもたらす側面の方が大きいと指摘しており、暗号資産業界からもこの見解への同調(支持)が集まっている。
伝統的金融界(ABA)による反論: これに対し、米国銀行協会(ABA)は「CEAは誤った前提のもとで、見当違いな問いを研究している」と激しく否定している。ステーブルコインに利回りを許可すれば、地域金融の基礎である商業銀行(コミュニティバンク)から深刻な預金流出を招くと警告。ステーブルコインの市場が将来的に兆ドル残高規模に拡大した場合、地域銀行は高コストな資金調達を余儀なくされ、結果として地域経済や中小企業への融資能力に深刻な打撃を与えると強く反論している[3]。
この対立を乗り越えるべく合意された超党派の「Tillis-Alsobrooks妥協案」[4]は、単にステーブルコインを保有していることに伴う受動的利回りや、銀行預金利息と経済的・機能的に同等の報酬を制限しつつ、決済、取引、プラットフォーム利用など真正な活動に紐づく報酬(アクティビティ・ベースの報酬)には一定の余地を残す方向で調整されている。
しかし、銀行業界は、活動ベースの報酬であっても、報酬の算定に保有残高や保有期間が連動する場合、実態は銀行預金利息の複製物となり、規制裁定(ルールの抜け穴利用)が生じるリスクがあると根強く懸念している。これに対し、2026年6月25日にシンシア・ルミス上院議員は、JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモンCEOらによる上記のような批判[5]を念頭に、「改訂案は口座残高に直接結びつく伝統的銀行利息の複製を厳格に禁じるものだ」と説明[6]し、伝統的金融側への配慮を強調している。銀行業界の反発は、単なる利権防衛ではなく、預金流出、地域金融の信用供給能力、金融システム全体の安定性というマクロ経済上の問題として位置づけられている。
論点(2):SECとCFTCの管轄権の切り分け
デジタル資産が証券としてSECの管轄に属するのか、デジタルコモディティとしてCFTCの管轄に属するのかという、米国暗号資産規制の中核問題である。
下院可決済みのH.R.3633法案テキストは、『デジタル資産』や『デジタルコモディティ』等の法的定義を設けたうえで、デジタルコモディティの募集・販売ルールや、SEC・CFTCそれぞれにおける仲介業者の登録要件などを規定し、両委員会の役割分担を制度化しようとしている。2026年6月1日時点の上院委員会報告版テキスト[7]でも、この基本的な枠組みは踏襲されているほか、DeFiやNFTといった将来の技術発展に対応するための政府調査も新たに盛り込まれており、単なる規制ルールにとどまらない、将来の金融イノベーションを視野に入れた包括的なフレームワークを目指している。
実務上は、前述のSEC解釈指針が、「(暗号資産等の)資産それ自体は証券ではない」場合があり得るという方向性を示し、ハウィー・テスト(Howey Test)の現代的解釈に基づく一般的なフレームワークを提示している。ただし、同指針は特定の個別銘柄(例:XRP等)が一律かつ恒久的に非証券に該当すると断定したものではなく、個別資産の法的評価は発行・販売時の表示、購入者の利益期待、発行主体または関係者の経営努力やネットワークの分散性などの具体的事実に依存するとしている点に留意が必要である。
論点(3):DeFi・非管理型開発者の責任とBRCA型規定
DeFi(分散型金融)や非管理型ウォレット、スマートコントラクト、ブロックチェーン・インフラの開発者・提供者を、どの範囲で金融仲介者・送金業者(Money Services Business: MSB)として扱うべきかという論点である。
暗号資産業界: 顧客資産を直接管理(カストディ)せず、単にオープンソースのコードや自己保管ツールを提供する開発者まで送金業者として法的責任を負わせれば、技術開発自体が過度に萎縮すると主張。
法執行機関・一部議員: DeFi関連の免責が広すぎる場合、KYC(顧客確認)・AML上の監督ギャップ(規制の空白)を生み、犯罪収益の移転や国際制裁回避を助長しかねないと懸念。2026年6月下旬には、全米保安官協会(NSA)、全米連邦検事補協会(NAAUSA)、全米地方検事協会(NDAA)、国際警察署長協会(IACP)などの法執行関係団体が、AML・KYC上の監督ギャップを懸念する共同の反対書簡[8]を提出した。
この対立の解消に向け、本法案に組み込まれた『非管理型開発者への免責(セーフハーバー)規定』は、顧客資産を実際に管理・移転できる主体には厳格なAML義務を課す一方、単にソフトウェアや自己保管ツールを提供するだけの開発者については、送金業者としての責任から免除するものである。開発者が「非管理型(ノンカストディ)」を保つ限り、過度な登録義務や法的リスクから免れるという大きな法的メリットがある。
なお、法案には「AML規定自体が存在しない」わけではない。デジタル資産仲介者に対するBSA(銀行秘密法)遵守、SAR(疑わしい取引報告書)提出、OFAC(外国資産管理局)規制の遵守義務、一時的な取引停止権限、オンチェーン分析ツールの利用義務など、厳格なAML関連規定や法執行支援規定が厳格に盛り込まれている。したがって、法執行機関側から投げかけられている批判は「AML規定の欠如」ではなく、「非管理型免責の範囲が広すぎることへの線引きの妥当性」に対する懸念として整理するのが正確な理解である。
論点(4):政治的利益相反・倫理規定
大統領、連邦議員、規制当局幹部など、法案の制定・執行に影響を及ぼし得る公職者が、暗号資産関連事業やトークン保有を通じて個人的利益を得ることをどこまで制限すべきかというガバナンスの問題である。
上院銀行委員会での審議において、選出公職者が暗号資産から個人的な利益を得る問題に対応する倫理条項が協議対象となり、激しい調整が続いている。この論点は、民主党左派による過度な要求というよりも、上院本会議でフィリバスターを回避(60票を確保)するために不可欠な、民主党穏健派の支持を取り付けるための必須の合意条件(超党派のバーター)として位置づけるのが正確である。
成立までに残る立法手続き
CLARITY Actが正式に成立するには、現在の膠着を打破した上で、下院版との調整を経て、両院で同一文言を可決し、大統領署名を得る必要がある。現時点で残る手続きは、以下のロードマップの通りである。
【立法手続き関係のロードマップ】
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[下院可決済み] (2025年7月) ↓ [上院銀行委員会 通過] (2026年5月14日) ↓ [委員会報告・上院議事日程に登録(Calendar No. 423)] (2026年6月1日) ↓ (STEP 1) 上院内の複数委員会案の一本化(★現在ここで足踏み) ↓ (STEP 2) 上院本会議での審議・採決(フィリバスター回避に60票必要) ↓ (STEP 3) 下院版との文言調整(両院協議会での一元化) ↓ (STEP 4) 上下両院での最終採決 → [大統領署名により成立] |
(STEP 1) 上院内の複数委員会案の一本化(上院本会議修正代案の画定)
CLARITY Actは広範な領域にまたがるため、主にステーブルコインやSEC管轄を扱う上院銀行委員会だけでなく、CFTCの現物市場監督権限を所管する上院農業委員会等の提示テキストとも統合される必要がある。上院本会議に上程する前に、両委員会のスタッフ間で合意された「上院本会議修正代案(Substitute Amendment)」としてテキストを一本化(画定)する作業が、現在最初の実務的関門となっており、現在の法案進行停滞はここで生じている。
(STEP 2) 上院本会議での採決
一本化された修正代案が上院全体にかけられる。本法案はすでに「Calendar No. 423」として本会議の全体審議待機リストに登録されており、まさにこのステップへ上程されるタイミングを待つステータスにある。しかし、本会議でフィリバスター(審議引き延ばし)を回避して採決に進むには、通常の過半数(51票)ではなく、5分の3(60票)の超党派の賛成が必要となる。共和党単独では60票に届かないため、民主党穏健派の支持が成否のカギを握る。利回り規制や倫理規定をめぐる合意が崩れれば、本会議への上程自体が遅れかねない。ジョン・トゥーン院内総務らは「7月中の採決」を掲げるが、時間的猶予は極めて乏しいのが実情である。
(STEP 3) 下院版との調整(両院協議会:Conference)
下院はすでに2025年7月に下院版を可決しているが、現在上院で審議されている委員会報告版とは、税金の報告閾値、DeFiの厳密な定義、CBDC関連規定、ステーブルコイン報酬の範囲などで乖離がある。そのため、上院本会議通過後は、上下両院の代表者が集まる「両院協議会」を設置し、「1つの最終法案(コンファレンス・テキスト)」に調整・統合しなければならない。実務上は、正式な両院協議会の設置に加え、水面下でのピンポン方式による文言調整が進められる見込みである。
(STEP 4) 両院での最終採決と大統領署名
一本化された最終法案が、再度「下院」と「上院」の双方で文言変更なしに可決された後、ホワイトハウスへ送付され、大統領の署名によって正式に法律として成立する。なお、トランプ大統領は他の政策課題との関係で法案審議や署名を政治的交渉材料として活用する可能性が指摘されている。ただし、現時点でCLARITY Actそのものに反対する立場を示しているわけではなく、本法案に関する主な不確実性は依然として上院での超党派合意形成と両院調整にある。
外部環境と市場・実務への影響
(2026年中間選挙と議会日程の限界)
2026年秋の中間選挙に伴う議会日程は、CLARITY Actの審議に最大の制約を与えている。大手投資銀行TD Cowenの政策分析によれば、下院は7月23日、上院は8月8日に夏季休会入りする予定であり、休会後の9月・10月は選挙活動のため、審議日程が極めて限られる。そのため、7月中にSTEP 2(上院本会議での採決)に入れるかどうかが、年内成立の最大の分岐点となる。8月の長期休会前に実質的な進展を確保できなければ、現行会期中の成立可能性(年内成立の芽)は著しく低下する。会期中に成立させられず翌年の新議会に持ち越された場合、これまでの審議はすべてリセットされ「廃案(白紙化)」となるため、その場合は11月の選挙後から翌年1月までの「レームダック会期(現職議員の残り任期期間)」での滑り込みを狙うことになる。
(暗号資産業界の政治的影響力と倫理規定の反作用)
暗号資産業界は、政治行動委員会(PAC:Political Action Committee)等を通じた巨額の政治献金により、米国政治への影響力を急速に高めている。法案推進派(Coinbase、Circle、Ripple、Andreessen Horowitzなど)にとって、CLARITY Actは米国をデジタル資産イノベーションの世界的な中心地に位置づけるための生命線であり、選挙前のスピード可決を求めてロビー活動を展開している。
しかし、この業界の政治的影響力の強まり自体が、逆に「政治的利益相反・倫理規定(論点(4)」をめぐる民主党側の反発を強める原因にもなっている。公職者が暗号資産セクターから不当な利益を得る抜け穴を防ぐ厳格なガバナンス条項の成否が、超党派の支持(60票)のトレードオフとなっている。
(SEC解釈指針の実務的意味)
前述のSEC解釈指針は、CLARITY Actが万が一未成立(または廃案)となった場合でも、市場に対して「一定の実務的予見可能性」を与える重要な防衛ラインとして機能している。資産の分類、プロトコル・ステーキングやラッピングに関する解釈基準が提示されたことで、法案成立時の新体制移行をスムーズにする下地は完成している。
ただし、SECとCFTCの両機関による共同方針は行政機関による解釈にすぎず、裁判所を拘束する法的な力(連邦法)は持たない。また、CFTCに包括的な現物市場監督権限を付与する法的根拠にもなり得ない。したがって、市場構造の最終的な安定と法的リスクの根絶には、依然として連邦法(CLARITY Act)の成立が不可欠である。
(州法<連邦優先:Preemption>との調和)
CLARITY Act(H.R.3633)には、デジタルコモディティに関する「州証券法(ブルー・スカイ法:Blue Sky Laws)の適用除外(Preemption:連邦優先)」に関する規定が含まれている。
しかし、これを直ちにニューヨーク州金融サービス局(NYDFS)の「BitLicense」など、各州が独自に敷いている「送金業規制(Money Transmitter Laws)」や「仮想通貨事業ライセンス制度」に対する全面的な連邦優先(無効化)と解釈するのは早計である。州証券法の適用除外と、州レベルの監督権限・ライセンス制度との境界線をどう調整するかは、今後の実務上の最終論点として残されており、法案の最終文言を慎重に精査する必要がある。
日本の金融機関・事業者にとっての示唆
CLARITY Actは米国連邦法案であるが、クロスボーダーでデジタル資産ビジネスを展開する日本の金融機関、暗号資産交換業者、ステーブルコイン関連事業者、信託・カストディ事業者にとっても、自社のビジネスモデルに直結する重要な示唆を含んでいる。
【管轄判定】米国証券法適用リスクのグローバル基準策定:SECとCFTCの明確な管轄区分およびトークン分類は、日本企業が米国の顧客や市場に関わるデジタル資産商品・サービス(一次発行、二次流通、ステーキング、DeFi接続等)を設計する際の、米国証券法適用リスク(レギュラトリー・リスク)を判定する世界基準となる。
【ビジネスモデル設計】ステーブルコインのインセンティブ設計:ステーブルコインの報酬・利回り規制における「受動的利回り(パッシブ)」と「活動連動型報酬(アクティビティ)」の法的分離は、日本における電子決済手段(ステーブルコイン)のインセンティブ設計、預金類似性の回避、および信託型・資金移動業型ステーブルコインのビジネスモデル構築において、極めて重要な比較法制度上のインサイトを提供する。
【技術・開発境界】ノンカストディ開発の免責境界の適正化:「非管理型開発者保護規定」の適用範囲は、日本のWeb3事業者の刑事・民事責任の境界線とも共鳴する。単なるスマートコントラクトのコード提供、ウォレットアプリの提供、UI(ユーザーインターフェース)の提供が、実質的な「資産の管理・移転(仲介業)」とみなされるかどうかの実務的基準として注視すべきである。
【AML・システム投資】オンチェーン分析・トランザクション監視の高度化:法案に盛り込まれているBSA遵守、SAR提出、OFAC対応、およびオンチェーン(分散型台帳)分析ツールの利用義務化の動向は、金融活動作業部会(FATF)基準を超えた実務標準となる可能性が高い。日本の事業者にとっても、自己保管(アンホステッド)ウォレットとの接続管理や、高度なトランザクション・モニタリングの体制構築が不可欠な実務課題となる。
結論と今後の見通し
CLARITY Actは、米国デジタル資産規制における長年の最大の課題であった「SECとCFTCの管轄分担」を立法によって決着させようとする、歴史的な包括市場構造法案である。下院を通過し、上院銀行委員会でも前進したことは、米国の規制環境が「執行による個別摘発」から「予見可能な制度設計」へと確実に舵を切っていることを示している(「執行による規制」の不安定性については、中山(2025)[9]を参照)。
しかし、成立の見通しは依然として不透明である。Tillis-Alsobrooks妥協案による利回り規制の線引きに対して伝統的金融界はなお預金流出・規制裁定を警戒しており、DeFi開発者保護に対して法執行機関はAML上の空白を懸念している。さらに、超党派支持の鍵を握る政府高官・議員の倫理規定(利益相反)をめぐる政治的駆け引きも、地方銀行の規制緩和措置などとの政治的バーターを含め、水面下で激化している。
当面の最大の注目点は、7月の休会入りまでのわずかな期間に、上院リーダーシップ(ジョン・トゥーン院内総務ら)が本法案を「上院本会議の採決日程」にねじ込み、60票の超党派支持をまとめきれるか否かである。この7月のタイミングを逃せば、どれほど精緻な規制枠組みであっても、中間選挙の渦に飲み込まれて会期末に廃案(翌年一からやり直し)となる可能性が極めて高い。金融機関およびデジタル資産事業者は、成立の可否だけでなく、最終的な法案文言がステーブルコイン、DeFi、AML、連邦優先の各論点をどのように処理する着地(文言)になるかを、継続的にモニタリングする必要がある。
(SBI金融経済研究所の過去の関連レポート等)
・「動き出した米国の暗号資産規制(後編) ―GENIUS法の概要―」(2025年8月25日)
・「動き出した米国の暗号資産規制(前編) ―ステーブルコインを規制するGENIUS法が成立―」(2025年8月12日)
・「米リップル社を巡る裁判の略式判決を読み解く ―個人向けに販売されるXRPは、なぜ「有価証券」ではないのか―」(2023年8月31日)
・「米国の暗号資産規制の動向」(所報第4号、2023年8月)
[1] U.S. Securities and Exchange Commission (SEC), Application of the Federal Securities Laws to Certain Types of Crypto Assets and Certain Transactions Involving Crypto Assets, Interpretive Release No. 33-11412 (March 17, 2026).
https://www.sec.gov/files/rules/interp/2026/33-11412.pdf
同指針はデジタル資産を「デジタルコモディティ」「デジタルコレクティブル」「デジタルツール」「ステーブルコイン」「デジタル証券」の5つに分類し、非証券型暗号資産(解釈上)が投資契約の対象となる場合・ならない場合の基準を明示している。さらに、エアドロップ、プロトコル・マイニング、プロトコル・ステーキング、ラッピング等に関する証券法上の扱いを明確化している。
[2] The Council of Economic Advisers. (2026, April 4). Effects of Stablecoin Yield Prohibition on Bank Lending. The White House
https://www.whitehouse.gov/research/2026/04/effects-of-stablecoin-yield-prohibition-on-bank-lending/
[3] Srinivasan, S., & Wang, Y. (2026, April 13). The CEA studied the wrong question on stablecoin 'yield' and community banks. ABA Banking Journal.
https://t.co/z7IShwNaHH
[4] 上院銀行委員会に提出され採択されたCLARITY act妥協案(2026/5/14)
https://www.banking.senate.gov/imo/media/doc/ehf26374.pdf
[5] Fox Business. "Jamie Dimon expresses unhappiness with Clarity Act for crypto regulations." Video, June 8, 2026. (https://www.foxbusiness.com/video/6397897939112)
[6] Fox Business. "Sen Cynthia Lummis says Jamie Dimon is 'mistaken' about CLARITY Act." Video, June 24, 2026. (https://www.foxbusiness.com/video/6399259799112)
[7] 上院本会議の審議・採決を待つリストに登録されたCLARITY actの草案(2026/6/1)
https://www.congress.gov/119/bills/hr3633/BILLS-119hr3633rs.pdf
[8] Joint Letter from the National District Attorneys Association (NDAA) et al. to Acting Attorney General Todd Blanche regarding H.R. 3633 (June 2026).
https://assets.noviams.com/novi-file-uploads/ndaa3/LE_Response_CLARITY_Act_6_23_26.pdf
[9] 中山靖司, 「米国の暗号資産規制の動向」, SBI金融経済研究所所報第4号, 2023年8月,
https://sbiferi.co.jp/assets/pdf/review/review_vol04_04_202308.pdf