2040年の経済社会シリーズ:日本における外国人労働者をどう捉えるか? -アジアの成長を人の移動の側面から取り込む-
1. 日本における外国人労働者をどう捉えるか?
日本において外国人労働者の受入れは長らくタブー視されてきた。しかし、日本が本格的な人口減少期に入り、人手不足が加速する中、外国人労働者受入れは重要な政策オプションとなりつつある。
2023年4月に国立社会保障・人口問題研究所から公表された「日本の将来推計人口(令和5年推計)」(国立社会保障・人口問題研究所 2023)では、2020年国勢調査を基準人口とし、2070年までの日本の総人口を86,996千人となると推計している(図1)。また、この間、新型コロナ禍による出生数の80万件割れなど、出生率の低下があったにもかかわらず、前回推計(2017年)と比較した場合、総人口が1億人を下回る時期は2053年から56年へと3年間、後ろ倒しとなったことは大きな驚きを以て受け止められた。
図1:日本人、外国人人口の推移(日本の将来推計人口(令和5年推計))
出所:国立社会保障・人口問題研究所(2023)
事実、少子化がより一層進展したことを受け、今回推計において出生率の仮定は1.44から1.36へと低下している。それにも関わらず、若干とはいえ人口減少のペースが緩和されたのはなぜであろうか。
それは、外国人人口の増加によるものである。前回推計では年間6.9万人の外国人の入国超過を見込んでいたものの、今回推計では足元の外国人人口の増加を受け、同仮定値は年間16.4万人にまで引き上げられた。その結果、2070年には外国人人口は9,390千人、総人口比で10.8%となるとの結果が得られている。これまでも外国人人口の増加は一定程度、人口減少を緩和してきたものの、これが中長期的な日本の人口トレンドの変化として顕在化したことの意義は大きい。
さらに同推計では条件付き推計として、出生率や外国人の入国超過数を機械的に変化させた場合の結果も示している(図2)。それによると、外国人の入国超過数が年間25万人となった場合の総人口、及び高齢化率に与えるインパクトは、出生率が高位で推移した場合(1.64)と同程度である。また、これが年間50万人となった場合には人口置き換え水準を超える2.20の出生率まで回復した場合とほぼ同じインパクトを与える。
図2:国際移動、出生率を変化させた場合の総人口、及び高齢化率の推移
出所:国立社会保障・人口問題研究所(2023)
今後、たとえ単年であっても、出生率が1.64やましてや2.20へと回復することは考えにくい。しかしながら、外国人人口の増加幅を見るならば、2022年、23年にはそれぞれ314,578人、335,779人と25万人を大幅に超える水準となっていることは注目に値するといって良いだろう。つまり、外国人の入国仮定については出生率より実現する可能性ははるかに高いといえる。
一方、外国人人口(ストック人口)に目を転じると、先進国における外国人人口の平均は14.3%であり、推計結果として得られた10.8%の外国人割合が実現したとしても、先進国の平均にはまだ達しない(図3)。仮に年間25万人の受入れとなった場合にようやく、平均をやや上回る15.1%に達する。
図3:OECD加盟国における外国人人口割合
出所:OECD(2022)
現時点での外国人人口の相対的な少なさは、日本がこれまで大規模な労働移民政策をとってこなかったことによるものである。同時にこのことは、今後、先進各国がこれ以上の移民受け入れが政治的に難しい状況に直面する中で、より一層の少子高齢化を迎える一方、日本には労働移民政策というオプションがまだ残されているという見方も可能である。
しかしながら、そのための議論をするにあたって、外国人労働者政策をめぐるリテラシーは依然として低く、基本的な事柄についても誤解が多い。本稿ではこうした点について検討していきたい。
2. 日本はもう「目指されない国」なのか?
仮に今後、積極的な労働移民政策をとるとしても、すでに日本はそのチャンスを逃しているとの見方は根強い。その背景には、昨今の急激な円安にも見られるように、日本の経済的優位性の低下といった要因が挙げられている。
しかし、こうした見方は事実を正確に反映していない。1990年代以降、日本とアジア諸国の経済的格差は格段に縮小しているものの、アジア諸国から来日し、日本で暮らす外国人の増加ペースは、リーマンショック(2008年)や東日本大震災(2011年)、及び新型コロナ禍(2020-21年)といった時期を除けば一貫して増加しているだけではなく、むしろ加速さえしているのである(図4)。日本が既に選ばれない国になっているというのであれば、30年ほどの間に来日する外国人数は減少し、足元では既に誰も来なくなっているはずである。
図 4:外国人人口の増加ペースの推移(対前年増)
注:在留外国人人口の内、中長期在留者に相当する者の前年からの差分
出所:在留外国人統計(法務省)より筆者作成
このような事実の背景には、国際移住を行う際には、移住能力と意欲の双方が関わるメカニズムがあり、それは最新の移民研究では「意欲‐潜在能力モデル」として整理されている(図5)。
移住意欲は経済発展がある程度進むまではむしろ上昇し、その後、低下するとされている。移住能力は経済発展とともに高まり、両者の重なるところで実際の移住が起きると考えられている。その結果、先進国に対する移住圧力については、一人当たりGDPが7千米ドルに達するくらいまでは高まることが最新の研究成果(IMF 2020)から示されている。
図 5:意欲-潜在能力モデルの概念図
出所:de Haas (2010)より筆者作成
また、このような見方は、移住決定においては移住先での期待賃金の高さよりも、移住にかかるコストの方が重要であることを示唆している。例えば、円安になって以降、むしろ外国人の流入は加速しているのは、円安による移住コストの低下による来日圧力の押し上げ効果が、期待賃金の低下による押し下げ効果を上回っているためと整理することができる。
さらに今後もこうした傾向が続くことは、国際通貨基金(IMF)が2020年に行った推計結果(IMF 2020)、及び同じ手法で日本に来る外国人労働者の供給ポテンシャルを推計したJICAによる推計(JICA 2024)からも明らかである(図6)。今後、日本とアジア諸国の経済格差はより一層縮小すると仮定しても、現在のメカニズムが妥当するならば、潜在的に来日する外国人労働者は趨勢的に増加すると見込まれるのである。
図 6:来日する外国人労働者数の将来推計(供給側)
出所:JICA(2024)
3. 外国人労働者の受入れは生産性の低下を招くのか?
外国人労働者の受入れは労働集約的で生産性の低い産業や企業を生き残らせ、日本のイノベーションを遅らせるという見方も依然として根強い。こうした意識の背景には外国人労働者を生産性が低い安価な労働力と見なしていることがある。
しかしながら、各種の先行研究によるとこうした見方は事実に反することが示されている。こうした中でもとりわけ生産性が低いと見られている技能実習生についてその賃金を見ると、日本人男性の平均の44.5%(▲55.3%)と非常に低いものの、学歴や勤続年数といった属性を考慮すると日本人との賃金格差は▲29%にまで縮小する。さらに出身国の送出し機関や日本側の監理団体への手数料など、技能実習生の受入れに必然的に伴うコストを考慮すると、時間当たりの単位労働コストは日本人非正規労働者を雇用する場合と比較してむしろ4%ほど高くなる(Korekawa 2023)。
このことは、外国人労働者を雇用する企業は最低賃金よりも4%程高い賃金を提示できなければならない、つまり最低限、その分だけ高い生産性を有していなければならないことを意味する。つまり、外国人労働者はたとえそれが技能実習生であったとしても、安い使い捨ての労働力とはいえないのである。
在留資格「技術・人文知識・国際業務」といったハイスキル層については、勤務先や勤続年数、学歴といった属性を考慮に入れた場合、日本人との賃金格差は▲6%にまで縮小する。これは米国の高度人材ビザであるH1-Bの現地人との賃金格差が▲25.4%であることや、韓国における格差の▲29%、ドイツなど先進国における賃金格差が▲10%程度であることを考慮すれば、相対的に小さいといえる(Kim and Lee 2021, Korekawa 2023)。
つまり、外国人労働者の雇用が、日本人を雇用する場合に比べて労働集約的な経営を可能にすることで、生産性の低下に結びつく可能性は低いといえるだろう。実際、OECDは日本の外国人労働者の受入れを研究開発投資による生産性の上昇と並んで、少子高齢化による生産年齢人口の減少に対してとられてきた政策オプションの一つとして評価しており、二律背反なものとは捉えていない(OECD 2024)。
4. アジアの国際労働市場の成長
日本の外国人労働者受け入れの特徴は現在、急速に成長しつつあるアジアの国際労働市場の視点から見ることでより明瞭になる。アジアは19世紀以来、出稼ぎ労働を中心とした国際労働移住が活発な地域である。それは20世紀や21世紀に入ってからも変わっておらず、2023年には約693万人の国際労働移住が発生している。その内、約336万人が湾岸産油国へ出稼ぎに行っており、残りの内、約238万人が日本を始めとした先進国へ、残り約119万人がその他のアジア域内に移住している(図7)。
実は日本はアジアから先進国へ向かう国際移住の内、53万人を受け入れており、これは米国の約42万人や韓国の8.9万人を超えて、アジアから先進国へ向かう人の流れの内、最大である(ADBI-OECD-ILO 2024)。
図7:アジア域内の国際労働移住の現状(フロー値、2023年)
出所:ADBI-OECD-ILO(2024)より筆者作成
また、アジア諸国から日本へ働きに来る人たちは、高卒以上であり、これは堅調な経済成長を背景に、中高等教育進学率が上昇するアジア諸国において拡大する中間層に相当する人々といえる。こうした人々の間での永住先としての日本の人気は高く、特に2015年以降、こうした傾向が強まっている(図8)(田辺・是川 2023)。
図8:アジア諸国からの理想の永住希望先の推移
注:縦軸はアジア諸国から各国への推定永住希望人数。
出所:Gallup(2023)より筆者集計
さらに、アジアの国際移住の特徴は、旧植民地からの難民や家族移民が主流である欧米とは大きく異なり、経済的動機に基づく移住が主流である。そのため、移民は文化や宗教面も含め、ホスト社会への適応を何よりも優先する傾向が強い。一方、難民や家族移民では、人的資本やその他の属性による選別は行われにくいのみならず、そもそも移住の動機自体が自発的ではない場合もあるなど、ホスト社会における宗教、文化的摩擦等の社会的分断や治安の悪化などの社会問題につながりやすい。
しかし、日本が急速に編入されつつあるアジアの国際移住において、こうした特徴は当てはまらず、「欧米の轍を踏むな」という一見もっともらしい警句はこうした単純な事実を踏まえないものといえる。
5. 日本の労働移民政策の未来
こういった事実は日本の今後の労働移民政策の在り方を大きく規定するものである。つまり、日本はもう目指されない国なのだという安易な悲観論や、外国人労働者の受入れは生産性の低下を招く、あるいは欧米のような社会的分断を生むといった一見、もっともらしい主張は、こういった事実を踏まえない印象論に過ぎないのである。
折しも、本年の6月には技能実習制度の後継制度としての育成就労制度が国会で成立した。これは3年間の技能形成を経て、その後、特定技能1号や2号として日本に引き続き就労することを念頭に置いた制度である。その大枠は技能実習制度と変わらないともいえるが、それを再定義することで最適化したものと捉えることが可能であろう。
その行く先には日本で定住、永住するミドルクラス外国人の増加やそれに伴う、日本語教育などの統合政策の充実といったことも期待される。また、一定以上の経済水準を越える国、地域との間でのハイスキル人材のための自由移動圏といった構想も生まれてくるかもしれない。こうした取り組みはいずれも成長するアジアの活力の一部を日本の経済社会の発展に取り込んでいく取り組みといえる。
幸いにしてアジア地域は戦争や紛争のような地政学的不確実性も低く、また今後も堅調な経済成長が見込まれる。そうした中、アジア地域の優秀な若者が日本を目指す傾向は今後も強くなっていくだろう。日本の労働移民政策はそうした確固たるエビデンスを踏まえつつ、機動的、効果的に立案される必要があろう。
(参考文献)
国立社会保障・人口問題研究所(2023)『日本の将来推計人口(令和5年推計)』https://www.ipss.go.jp/pp-zenkoku/j/zenkoku2023/pp2023_ReportALLc.pdf
ADBI-ILO-OECD (2024) Labor Migration in Asia: Trends, Skills Certification, and Seasonal Work, https://doi.org/10.56506/XLCT8213
de Haas, H. (2010) “Migration Transitions: A Theoretical and Empirical Inquiry into the Development Drivers of International Migration”. IMI Working paper 24, International Migration Institute, University of Oxford.
Gullup Inc. (2024) World Poll Data, Gallup Inc.
IMF (2020) World Economic Outlook: The Great Lockdown. Washington, DC, April.
JICA (2024) 『2030/40 年の外国人との共生社会の実現に向けた調査研究に係る外国人労働需要予測の更新業務最終報告書』独立行政法人 国際協力機構(JICA)緒方貞子平和開発研究所
Kim, Hyejin and Lee, Chulhee (2021) “The Immigrant Wage Gap and Assimilation in Korea” Bank of Korea WP 2021-16, Available at SSRN: https://ssrn.com/abstract=3946099 or http://dx.doi.org/10.2139/ssrn.3946099
Korekawa, Yu (2023) “Determinants of Foreign Workers' Wages in Japan: An Analysis Focusing on Wage Gaps with Japanese”, IPSS Working Paper Series (67), pp.1-82. https://doi.org/10.50870/0002000182
OECD (2022), International Migration Outlook 2022, OECD Publishing, Paris, https://doi.org/10.1787/30fe16d2-en.
OECD (2024), Recruiting Immigrant Workers: Japan 2024, Recruiting Immigrant Workers, OECD Publishing, Paris, https://doi.org/10.1787/0e5a10e3-en.