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次世代金融研シリーズ:銀行システム改革に関する提言比較

はじめに・・・活発化する銀行システム改革の議論

近年、銀行システムの改革に関する議論が活発化している。こうした議論が活発化する背景には、日本が過去30年間に亘り長期低迷を余儀なくされ、グローバルプレゼンスが大きく低下した現状がある。その間、銀行も十分な役割を果たせず、1990 年代は不良債権問題への対応・処理に追われ、2000 年代に入り、異業種からの金融業務への参入等、銀行にとって厳しい時代が続いた。

金融制度・規制についても問題を抱えている。現行制度は約30年前に導入された業態別子会社方式をとっており、こうした縦割り的な規制体系では、金融イノベーションの進展や顧客ニーズの多様化への対応にも限界がある。

また、ここにきて、世界ではデジタル化の急速な進展等により、GAFAMが勃興する大きな潮流変化が起こっている。生成AIも進展しておりデジタル化の波は新たなステージに移行しつつある。現状の金融システムのままでは、こうした世界の流れから取り残される懸念がある。

そこで、国のほうでも対応が検討されており、2026年7月21日に新戦略策定のための資産運用立国推進分科会の報告書「成長投資を促進するための金融戦略」が発表され、報告書内で2026年度中に研究・検討を開始するものとして、ファイヤーウォール規制の見直しとともに、「一般持株会社の仕組みの是非」が取り上げられている。もちろん報告書の内容は「骨太方針2026」にも反映されている。議論がどのように展開するかは今後次第だが、金融システム改革が一歩前進したことは間違いない。

また民間においても、SBI金融経済研究所「次世代金融インフラの構築を考える研究会」分科会Cに、日本経済調査協議会「金融委員会」、全国銀行協会「中長期的な金融仲介の在り方WG」を加えた3団体からも提言がされている。

本稿では、この民間3団体からの提言内容について、銀行システム改革の議論のうち、銀行のビジネスモデルに関する観点を中心に整理することとしたい。

日本経済調査協議会の提言・・・J-マーチャントバンクの創設とリングフェンスの導入

日本経済調査協議会の金融委員会は、2024年11月に「日本再生と持続的成長に寄与する金融システム改革に向けて」と題した報告書を発表した。内容は、日本経済の諸問題、世界的なデジタル化の波など様々な世界的な諸問題を踏まえ、日本の金融システムにおける課題を指摘し、今後に向けた金融システム改革を提言している。

報告書において、金融システム改革に向けた様々な提言をしているが、銀行のビジネスモデルの観点で特に重要なのが「J-マーチャントバンクの創設(ホールセール・ユニバーサルバンクの解禁)」と「リングフェンスの導入」である。

(1)J-マーチャントバンクの創設

現在、日本においては、ユニバーサルバンクのフル展開は認めておらず、同一持株会社傘下にはあるものの銀行、証券、信託、リースなどの金融機能別に子会社として分けられており、利益相反取引の防止や顧客の非公開情報の共有を制限するための規制・仕組みとしてファイヤーウォール規制が導入されている。しかし、報告書内では、金融機能別子会社をホールセール分野において、一つの事業体で総合的に営むことを可能とし、且つ、リスクマネーの供給面でも直接金融(証券)と間接金融(融資)の両面で企業の多様な調達ニーズに柔軟に応えることができるユニバーサルバンキングを解禁することを求めている。

「J-マーチャントバンク」は企業のよきパートナーとして、その経営戦略や成長ステージに応じたリスクマネーの供給等、必要とされる金融サービスをワンストップで包括的、機動的に提供することで、取引先企業の長期的な成長・発展に貢献することを使命とする。加えて、世界的なパラダイムシフトが起きる中で、産業金融のプロとして日本の強みを最大限に引き出しつつ、日本の産業構造の転換を主導する能動的な役割を担うこととなる。

また、カーボンニュートラルに向けたグリーントランスフォーメーション(GX)、生成AIの加速度的進化を踏まえたDX、少子高齢化を乗り切る労働生産性の飛躍的向上、疲弊する地方の本格創生等、個別企業の経営を越えた、産業レベルや地域レベルでの大きな変革や「選択と集中」が求められている。そのため、それを推進する官民の意思疎通が重要であり、官民で産業戦略や地域戦略のアジェンダとゴールを共有し、明確なロードマップの下で有機的に連携しながら取り組んでいく必要があり、J-マーチャントバンクには官と民との結節点としての役割も期待されるとしている。

なお、J-マーチャントバンクの資金調達手段として預金は認めるが、預金保険の付保対象とはしないことや、顧客保護の徹底の観点から、優越的な地位の濫用防止や利益相反防止、並びに顧客情報の的確な管理等を徹底し、行為規制を含む適切な規制措置を講じることにも触れている。

しかし、J-マーチャントバンクについても課題がある。一例が資金調達である。J-マーチャントバンクは大企業取引業務や市場業務という、他と比べ比較的リスクが高い業務を担うためバランスシートが巨大となり、金融システムが脆弱となる懸念がある。そのためには、「貯蓄から資産形成へ」を進めると同時に、スタートアップ企業を、経済面だけでなく経営面や法務面など、様々な面からサポートする枠組みであるエコシステムを育成する必要がある。その結果、J-マーチャントバンクのバランスシートは小さくなり、金融システムへの負担も軽減できることとなる。

(2)リングフェンスの導入

報告書では、英国を参考にリングフェンスの導入を求めている。リングフェンスの導入目的は、J-マーチャントバンクやファンド事業、非金融事業等から生じるリスクが銀行の預金業務に伝播、波及することを防ぎ、システミックリスクの発生を未然に防止することにある。その上で、リングフェンスされた銀行は預金・貸出・決済業務等の中核業務に集中するコアバンク化を図る。また、デジタル化の徹底等により、そうしたコアバンク業務の付加価値を高め、生産性を大きく改善すると共に、銀行の主たる役割である信用創造機能を効率化・高度化する。そうすることを通じリングフェンスされた銀行(コアバンク)は、中核業務への集中を通じて業務内容が明確にシンプルになることから、他のグループ業務からの切り離しも容易になる(ポータブル化の実現)。こうすると銀行グループの戦略上の選択肢も広がる。

リングフェンスされた銀行(コアバンク)の健全性を維持する措置も必要となろう。英国の事例を踏まえれば、コアバンクからリングフェンス外の部門への利益の流出を認めず、逆に、リングフェンス外から銀行への利益の移転は認めるなど、コアバンクの資本基盤の毀損リスクを抑制することも考えられる。また、コアバンクの取締役の半数以上を独立社外取締役にすることで、意思決定を持株会社の判断とは切り離し、コアバンクのガバナンスを独立性の高いものにすることも一案としている。

全国銀行協会の提言・・・銀行ビジネスモデルのオプション例提示

全国銀行協会「中長期的な金融仲介の在り方検討WG」は、2026年3月19日に「国民経済の成長を支える「要」の役割を果たすための改革に向けた提言」と題した報告書を発表した。日本経済の持続的成長と国民の豊かな生活の好循環を実現するためには、金融仲介機能の継続的な強化が必要であり、企業による成長投資を促進するための金融仲介の在り方について検討し提言している。銀行ビジネスモデルについては、オプションを提示し、その進化や必要と考えられる規制・制度の対応を求めている。

銀行としてのビジネスモデルについては、銀行が、ローン供給を強化するとともに、金融・非金融を組み合わせた成長投資の具体化に係るサービス提供や、エクイティ供給等も含む多様な資金供給への貢献、社債・セカンダリー市場の拡大を図ることが重要であり、各銀行が経営基盤を置く地域社会や経済の構造、顧客の特性、自らの人材・ノウハウ等のリソース、現在強みを持つ/今後強みを発揮していきたいビジネス領域等を踏まえたうえで、どのような領域を強化していくかを自ら判断していくことが必要となる。

これによって、銀行のビジネスモデルの多様化が図られ、結果として、様々な顧客のニーズに、我が国の金融仲介機能が応えていくことができるようになる。「成長投資の具体化」や「資金供給」の機能を主体的に発揮し、我が国企業・産業の競争力の強化や地域社会・経済の課題解決に貢献していく観点から、想定される銀行のビジネスモデルとして、図表のようなオプションを提示している。多様なビジネスモデルがあり得るほか、これら複数を組み合わせて営むことでのシナジー発揮も期待できるとしている。

図表1 銀行のビジネスモデルのオプションの例

デット・市場活用モデル

グローバルに活動する企業等に対して、銀行全体として、多様な資金供給機能を、間接金融・直接金融のいずれの観点からも総合的に提供するとともに、その目利き力をもって組成された良質なアセットをセカンダリー取引で流通させ、多様な投資家を我が国の金融市場に惹き込み、市場を創っていくビジネスモデル。

デット・エクイティモデル

ローンだけでなく、銀行として可能な範囲でエクイティ供給も拡大し、イノベーションを生み出す事業を営む顧客に対してハンズオンの支援を行い、初期段階から事業を共創していくビジネスモデル。

金融・非金融モデル

自らが経営基盤を置く地域社会の活性化に向けて、その地域および顧客のニーズに応じて、金融サービスの提供だけでなく非金融サービスをも提供し、地域社会とステークホルダーを繋ぐアレンジャーとして様々なシナジーを発揮していくビジネスモデル。

(出所)全銀協/中長期的な金融仲介の在り方検討WG

SBI金融経済研究所の提言・・・金融サービスの提供を柔軟に推進できる環境整備

SBI金融経済研究所「次世代金融インフラの構築を考える研究会」分科会Cからは、2026年3月31日に「金融業における業務範囲規制のあるべき姿」が発表された。同研究所は、2023 年 12 月に「次世代金融インフラの構築を考える研究会」を立ち上げ、3つの分科会を設置し、うち分科会Cでは「金融産業構造の未来像」を中期的テーマに据えて提言している。

銀行ビジネスモデルについては、報告書内においては、具体案の提示はないものの、AI エージェントを始めとする技術進歩に伴い、商流(非金融活動)と決済(金融活動)の融合による金融サービス(BaaS等)の高度化などにより、金融・非金融分野間の垣根が急速に低下している現状において、既存の厳格な業務範囲規制を維持し続けることは金融産業におけるイノベーション促進を阻害する要因となり得るとし、今後の金融インフラの発展のためには、金融機能に着目して金融サービスのアンバンドリング(分解)とリバンドリング(再結合)を行い、自らのビジネスモデルに沿った形で金融サービスの提供を柔軟に推進できる環境を整備することが不可欠としている。

また、非金融分野との融合による全く新しい高付加価値な金融サービスを創造するためには、銀行・保険会社が長年培ってきた資金力、顧客基盤、信用力といった経営資源を非金融分野の開拓に柔軟に投入できる環境を作らなければならず、新たな業務への進出を一律に禁止する現行の他業禁止規制の廃止を求めている。

今後の方向性・・・提言内容の実現を期待

日本経済調査協議会と全国銀行協会はより銀行のビジネスモデルに、SBI金融経済研究所はより業務範囲規制を中心とする金融制度に着目している点では若干の違いはあるが、3団体の提言とも銀行業務と非銀行業務を融合していく方向性では一致している。

米国の「銀商分離規制」を取り入れ、徐々に緩和はしてきたものの、銀行の業務範囲を規制するように制度を整備し運営してきたわが国では、こうした制度改革や規制緩和は難しいものと思われてきた。しかし、世界の潮流が変化しデジタル化や生成AIが発展してくると、求められる銀行のビジネスモデルも変革してゆかなければならない。今後、3団体の提言内容が少しでも実現する方向に進むことを期待したい。


 

参考文献
日本経済調査協議会(2024) 金融委員会報告書「日本再生と持続的成長に寄与する金融システム改革に向けて」https://www.nikkeicho.or.jp/result/kinyu/
全国銀行協会(2026) 中長期的な金融仲介の在り方検討WG報告書「国民経済の成長を支える「要」の役割を果たすための改革に向けた提言」https://www.zenginkyo.or.jp/news/2026/n031901/
SBI金融経済研究所(2026) 次世代金融インフラの構築を考える研究会 分科会C第一次提言「金融業における業務範囲規制のあるべき姿」https://sbiferi.co.jp/study-group/study-group-next-generation-c.html

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