NFT の持続可能性を考える -NFTは長期保存できる資産と言えるのか?-

SBI金融経済研究所 主任研究員

中山 靖司

はじめに

 前回のレポートでは、「NFTは本当に唯一無二と言えるのか?」と題しNFTの信頼性について考察した。本稿では、あまり論じられることがないが実は重要なこととして「NFTは持続可能か」という論点について考えたい。NFTは図表1のとおり様々な用途で活用されているが、以下の議論では主に、典型的に思い浮かべられるものとしてコレクティブル(希少価値を持つ収集品)やアート等のデジタルアセットを想定する。実物アセットや利用権等をNFTに紐づけたユースケースについては、既に存在するアセットを扱いやすくするものであり、NFTを用いることの目的や紐づけの仕組みが異なるため、本稿の範囲外とする。

図表1 NFTの分類(例)

図表1 NFTの分類(例)

筆者作成

NFTは持続可能なのか?

 コレクティブルやアートなどのコンテンツデータ(デジタルデータ)の販売に活用されているNFTは、過去には高額で売買されるなどバブルの様相も見せ注目を浴びたが、最近では落ち着きを見せている。現在では真に価値のあるものへの選別が進んでおり、価値の裏付けが明確でないと思われるようなものについては価格が低迷している一方、その価値が広く共有されるようなものは底堅く推移しているのが現状である。

 こうしたNFTが一定の価値を持つものとして安定して取引される背景には、NFTが対象とするコンテンツデータが唯一無二のものとして信じられているのに加え、NFTおよび対象データが、少なくとも物理的な芸術作品同様に将来にわたって長期保存できると考えられていることがあろう。

 紙やキャンバスに書かれた芸術作品は、紫外線や湿度などを考慮し適切な環境で管理すれば、経年劣化を最低限に抑え未来に残すことが可能であり、その芸術的な価値はもちろん、資産として長期保存できることが価値の源泉の一つになっていると考えられる。それでは、NFTはどうであろうか。NFTやNFTが対象とするコンテンツデータはデジタルであり、経年劣化することはない。また、インフラとして使われているブロックチェーンは書換えが難しいとされており、暗号資産やNFTの信頼性の根幹をなす技術となっている。NFTに関してもデジタル資産として長期保存できると考えられ、安定した取引が成立していると考えられよう。

 しかしながら、現在のNFTの多くは実装上の問題もあり、十分な長期保存性を実現していない可能性があるほか、将来の技術動向の変化や暗号資産の栄枯盛衰、すなわち、NFTを支える分散型台帳や関連システムにかかる不確実性(特に後者)によって、そうしたNFTの持続可能性が影響を受けることもあるため、以下ではこの点を含む5つの課題を指摘する。

NFTの持続可能性(永続性)にかかる課題


  NFTとコンテンツデータの紐づけの持続可能性

 NFTは、対象とするコンテンツデータの所有者[1]が誰であるかを明らかにする証明書のようなものである。つまり、そのNFTに紐づいているコンテンツデータが確実に特定できることが重要である。一番確実なのは、ブロックチェーン上のNFTの中に対象となるコンテンツデータそのものを格納することであり、この場合、改ざんは極めて困難である。しかしながら、通常、コンテンツデータの容量は大きいことからブロックチェーンに書き込むとなると手数料が高額になり現実には難しい。そこで多くのNFTでは、図表2に示すようにNFTマーケットプレイス等が運営する外部サーバ上のメタデータを指し示す情報のみをNFT内に持ち、さらにそのメタデータが対象となるコンテンツデータを参照することで一意に定まるようになっている。ここで問題となるのが、ブロックチェーン上のデータは書換えが極めて困難なのに対し、外部サーバ上のメタデータやコンテンツデータは書換えが可能なことである。特に、NFTマーケットプレイス自身がこの外部サーバを運営する場合は、自ら書換えることが容易であるため問題が大きく、業者の信頼性に依存することになる。

 こうした問題に対処すべく、適切なNFTマーケットプレイスはIPFS[2]を活用し、事後的にデータを差し替える等の改ざんを困難としているが、一方で、将来にわたってIPFSからデータを参照できるようにするためには、データが整理・削除されないようシステム維持に一定のコストを払い続ける必要があり、永続的なサービスとは言い難いといった問題がある[3]

図表2 NFTを構成する情報

図表2 NFTを構成する情報

筆者作図


  NFTマーケットプレイスの持続可能性

 本来NFTはマーケットプレイスの介在がなくても取引可能であるが、現実問題としてマーケットプレイスのインフラに依存しているケースが多い。NFTの対象となるコンテンツデータが、マーケットプレイスが運用するサーバ上に格納されている場合、当該マーケットプレイスがサービスを終了するとデータの存続が保証されなくなる。こうした問題に対処するためには、IPFS等のサービスを利用することが有効であるが、前述のとおり、それでもデータが削除される可能性があるほか、そもそもIPFS自体が永続的である保証もない。


③  ブロックチェーンの持続可能性

 NFTは、プラットフォームとして使われているブロックチェーンが将来にわたってサービスを継続している必要がある。これには、当該ブロックチェーンをインフラとして利用する暗号資産やDeFiサービスが競争に勝ち残り、使われ続けていることが大前提である。加えて、利用されている暗号技術やハッシュ関数が、脆弱性の発見や計算機能力の向上、量子コンピュータの登場等によって破られそうになった場合に、暗号技術の適切なマイグレーションが行われ、「記録や記録行為はいかなる手段によっても否定されない」といった広義の耐検閲性が維持され続ける必要がある。


  NFT取引環境の持続可能性(ガス代の高騰)

 NFTの人気が高まると、ブロックチェーンネットワーク上の取引が増え、結果的にガス代(取引手数料)が高騰することがある。これは、ブロックチェーンネットワークが一定の取引しか処理できないため、ユーザーが取引を優先して処理してもらうためにより高いガス代を支払う必要が出てくるためである。しかし、ガス代の高騰はユーザーにとって大きな負担となるほか、NFTの価格自体が低い場合にはガス代が支払代金の大部分を占めるなど大きな摩擦となり、売買市場におけるNFTの流動性を失うことにもなりかねない。


⑤ 法制度等の未整備

 NFTの法的地位や規制はまだ確立されていない。デジタルデータに所有権の概念が存在しない中で、NFTの保有とは法的にどのような意味があるのかを整理するとともに、詐欺や著作権侵害といった問題にも対処できるよう法制度の整備を図ることも必要になると思われる。

持続可能なNFTとするには

 ではどうしたらNFTが資産として長期保存ができる永続的なものになるのであろうか。前述のからNFTを取り巻く外部環境の問題であり先を見通すことは難しいため本稿では指摘にとどめるが、NFTそのものの技術的な観点からの課題であり、独立して取り組むことができる事項であるため、以下で考察する。

 NFTの紐づけ対象のコンテンツデータを保証する確実な方法は、「コンテンツデータそのものをブロックチェーン上に載せる」というものである。この方法は、特定のNFTマーケットプレイスに依存しないという意味でも望ましい方法であるが、前述のとおり、現状ではコストがかかりすぎて現実的ではない。将来、ブロックチェーンの機能更新が重ねられ、わずかなコストで効率的にオンチェーンによるデータ保管が可能となった場合には再考に値する方法である。

 本稿で提案するのは、「コンテンツデータのハッシュ値をオンチェーンに載せ、データそのものはNFT保有者が自ら保管する」という単純な方法である。これは、NFT保有者が自らの責任でデータを保存するという意味で機能しやすいと考えられる。とはいえ、NFTの売買プロセス自体には対象となるコンテンツデータの受け渡しは含まれないため、この手法は、売買が想定される場合には買い手も自らデータを保有する用意があることが前提となる(同手法が普及しないと売却できなくなる可能性がある)。具体的には、NFT購入者は事前に販売者が公開するコンテンツデータをダウンロードして自分で管理する、そして、そのハッシュ値がオンチェーン上に書かれている情報と一致するかを確認する必要があるが、こうした一連のプロセスがウォレットの機能として搭載されれば、さほど煩雑ということもないと思われる。

図表3NFTとコンテンツデータの紐づけ方

図表3NFTとコンテンツデータの紐づけ方

筆者作図

まとめ

 NFTは多くの場合、「ERC721」「ERC1155」等の標準規格に則って運用されており、NFTマーケットプレイス等が異なっていてもある程度の相互運用性は保たれている。しかしながら、その実装は業者によって区々なほか、様々な不安定要因があり、NFTおよびNFTが対象とするコンテンツデータの持続可能性には限界がある。現状、NFTマーケットプレイスは購入者に対して、NFTの長期的な資産価値は不透明であることを十分に説明するとともに、業界としてNFTの持続可能性を高めるための実装や運用の改善に向けた取組みが求められている。


[1] ただし、法的にはデジタルデータには所有権の概念がなく、この点は5番目の問題点として後述する。

[2] IPFS (Inter Planetary File System): Protocol Labs社が開発したP2Pネットワークで分散的に稼働するストレージサービス。コンテンツ指向型のプロトコルであり、「場所」ではなく、情報の「内容」自体を指定してアクセスする仕組みが特徴。ハッシュ値をキーとしてアクセスする方法を採用しているため改ざん耐性があるとされる。ただし、一定料金を払い続けないと、ユーザーからのアクセスが少ないデータは削除される可能性がある。

[3] データを極めて長い期間保管することのできる分散型ストレージサービスとしては、Arweaveがある。データを永久に保存できるだけのインセンティブを最初に払う仕組みであるが、IPFS同様にArweaveのサービス自体が普及するかどうかは不透明である。