暗号資産規制の最前線 -SBI Research Review vol.4-

 機関誌SBI Research Review の第4 号を8 月末に発行しました。今号は、国内ステーブルコイン法制の詳細解読や日米の暗号資産規制を主なテーマに、分散分権型マネーシステムであった江戸時代の為替システムや、デジタル証券の現状と課題に関する対談などを掲載しています。以下では、各論文の読みどころをコンパクトに紹介いたします。

1 竹中巻頭言

 毎年閣議決定される「骨太方針」は、時々の政権の政策運営一覧が読み取れる重要な情報源です。当研究所の竹中名誉理事長が「骨太方針2023 を深読みする」と題して、3つのポイントを紹介します。

巻頭言

2 山沖論文

 世界に先駆けて仮想通貨規制が資金決済法に導入されたのが2016 年。しかし、支払手段よりも投資対象としての性質が注目されて暗号資産に名称変更が行われ、19 年、20 年、22 年の3回にわたる法改正が実施されてきました。その結果、暗号資産を始めとするデジタル決済手段の定義が複雑化し、どの規制がどのように適用されるかがわかりにくくなっていま
す。本稿は、資金決済法・金融商品取引法の改正経緯をひも解きながら、全体俯瞰を提供しています。また、適用法令に関する便利な判定フローチャートも付いています。

資金決済法・金融商品取引法の改正経緯から紐解くデジタル決済手段(暗号資産類似)等の定義と注目点

3 河合論文

 ステーブルコインは、法定通貨を単位とした新しいタイプのデジタルマネーです。電子マネーや預金というデジタルマネーが既にあるなかで、暗号資産技術の発展過程で登場してきたステーブルコイン。その取扱いを巡っては2022 年に資金決済法が改正され、本年6 月の施行に先立って政令・監督指針・ガイドライン等が示されています。法規制の内容は複雑なうえに論点が多岐に渡っています。難解と言われるステーブルコイン法制について、① ステーブルコイン法制の対象範囲、② 電子決済手段の定義とその外縁、③ 発行者と発行形態、④ 仲介業務とその形態、⑤パーミッションレスチェーンの利用の可否、⑥外国発行のステーブルコインの取扱、という6つの重要ポイント(勘所)からわかりやすく解説します。

ステーブルコイン法制の6つの勘所

4 中山論文

 米国では、暗号資産を巡るトラブルや訴訟が続いていますが、意外なことに連邦レベルでの暗号資産規制の整備は全く進んでいません。SECなど複数の規制当局が「執行による規制」を手探りで行っていますが、様々な当局が介在することや連邦議会議員の意見対立もあり、各国で導入されつつある包括的な規制および執行の枠組みの導入には至っていません。しかし、その混乱の過程で、暗号資産は証券か、そもそも証券とは何かという根源的な問いが議論されています。そうした米国の規制を巡る現状をご報告します。

米国における暗号資産規制の動向

5 湯山論文

 米国では、暗号資産の分散型交換所DEX やLending サービスなどのDeFiサービスが取引規模で約500 億ドル(7兆円)まで拡大し、既存の集権型交換所のコストやリスクの削減のほか、取引の透明性向上や金融包摂の面で注目されています。一方、マネーロンダリングやハッキングの危険性、相場操縦などの不公正取引やシステミック・リスクを誘発する可能性なども指摘されています。コンピューターコードをどのように規制するのか(そもそも規制可能なのか)といった規制論や、ディスクロージャーのあり方などへの問題意識も高まっている状況です。本稿では、イノベーションの推進と健全な市場育成・投資家保護の間のジレンマにさらされる米国のDeFiDeFiの現状を説明します。

米国における暗号資産規制を巡るもうひとつの論点:DeFi(分散型金融)をどうするか 

6 福本論文

 中国では2010 年代に民間のプラットフォーマー主導でフィンテック・ビジネスが急速に発展しました。なかでも、アリババ傘下のアントグループはその主役でした。しかし、2020 年を境目に、中国政府は全面的なプラットフォーマー規制強化へと乗り出し、その代表格であったアントグループも、決済、融資、保険、信用調査といった各業務に厳しい規制が導入され、ビジネスが縮退しつつある状況です。本稿では、今後の伝統的金融業の巻き返しや、政府主導でのデータ共有・流通の動き、デジタル人民元の利用拡大も視野に、アントグループを中心とした中国のフィンテック規制を概観します。

中国のフィンテック規制とその影響

7 鎮目論文

 現代国家では、中央銀行と民間金融機関が中銀マネー(現金と当座預金)と民間マネー(預金)を発行するというマネー発行の二層構造が取られています。また、円やドルという単一の貨幣体系で統一されていることも、意識すらしないほど当たり前のものとなっています。実は、こうした貨幣の歴史は200 年にも満たず、江戸期や明治初期には全く異なる貨幣制度が存在していました。現在、ノンバンク発行のデジタルマネーやステーブルコインが登場しており、CBDC も議論されるなど貨幣体系の多様化が進展しています。こうした変化の時代においては、かつてどのような貨幣制度が存在し、どう機能していたかを学ぶことは有益です。江戸期には、幕府や藩、商人など複数の発行体による貨幣が併存し、通貨単位も異なっていました。米などの商品サプライチェーンでは複数の貨幣が利用され、それぞれの貨幣単位で表現される価値の連鎖が両替商によって支えられていました。本稿では、こうした江戸時代の分散分権型の貨幣制度を概観したのちに、明治期に貨幣制度がどのように統合されていったかを紹介しています。

幕末維新期日本の貨幣制度と 貨幣使用の変遷

8 平田×政井対談

 巻末対談では、日本STO協会(日本証券業協会に相当する自主規制団体)の平田常務執行役員をお迎えし、当研究所の政井理事長が日本のSTO市場の現状・課題・将来像についてお話をお伺いしました。2020 年の金融商品取引法改正を契機に日本でもセキュリティトークン(デジタル証券)が発行可能となり、マンションなど不動産を裏付け資産としたデジタル証券が活発に発行されるようになってきています。一方、制度と税制の不一致や法制度整備の遅れなどの様々な懸念材料や、裏付け資産の多様化という課題、小口での対応を可能とする関係者のコスト・メリットの実現といった問題点も意識されている状況です。本稿ではこれらを踏まえたSTO 市場の将来像も紹介されています。

セキュリティトークン市場の現状と将来像 


所報のすべてのコンテンツを見るにはこちら