デジタル金融に関する高齢者保護法制(後編)
―米国の暗号資産ATM規制からの示唆―
米国の暗号資産ATM規制
前編では暗号資産ATMとそれに関連した高齢者保護の課題について紹介した。後編では米国における法制化の動きについて整理する。
現在、米国において暗号資産ATM規制に特化した連邦制定法は存在していない。これに対し、州レベルでは、暗号資産ATMに関する高齢者保護を射程とする制定法が相次いで導入されている。
暗号資産ATMに関する高齢者保護における立法作業においては、AARPの存在が重要である。AARP(旧、アメリカ退職者協会)は、50歳以上の人々の生活向上を目的とする米国の非営利・超党派団体で、高齢者の医療、社会保障、消費者保護などに関する政策提言や支援サービスを提供する全米最大規模の高齢者支援組織である。
AARPの具体的な活動範囲は多岐に及ぶが、その1つとして、高齢者を標的とした詐欺を防止するため、暗号資産ATMの規制に関する各州の立法作業を支援している。AARPは統一的なモデル条項全体を具体的に公表しているわけではないが、各州に対して専門的な推奨事項を提示している(Storrs, 2026)。本稿では、米国20州[1]の立法実績を横並びで調査した。その結果、①ライセンス取得義務、②法定開示事項および警告表示義務、③利用者サポートサービス導入義務、④取引限度額設定義務、⑤返金請求権・取消権、が主要な共通設計であることが明らかとなった。
各州の立法内容は、当然ながら完全には同一ではない。インディアナ州は、暗号資産ATMの州内設置を禁止するという極めて厳格な立法を導入している。ただ、他州では、暗号資産ATMを認めつつ、上記の主要な共通設計を適宜取り入れた立法を導入している。そこで以下では、上記の共通設計をすべて取り入れているほか、公的なFAQが充実しており、かつ最も標準的と思われる立法内容を持つネブラスカ州法を軸とし、それぞれの設計の内容を具体的に取り上げる。そのうえで、他州において特徴的な立法があれば言及することとする。
立法の射程
ネブラスカ州法の正式名称は「暗号資産詐欺防止法(Controllable Electronic Record Fraud Prevention Act)」であり、2025年3月に知事により署名され、同年9月より施行されている。
同州法は、法文上、その対象者を高齢者に限定していない。同州法は金融サービス規制の1つとして構築されており、医療・社会福祉分野の規制ではない。そのため、特定の年齢層のみを対象とすると、制度設計の整合性を欠くためと考えられる。
しかしながら、高齢者支援組織であるAARPが立法を支援してきた経緯(AARP, 2025; AARP, 2026)等を考慮すれば、実質的には高齢者保護に主眼をおいた規制であると言って差し支えない。
他州の州法もネブラスカ州法と同様である。すなわち、実質的には高齢者保護を念頭に置いて規制を導入したにもかかわらず、法文上、明示的には対象者を高齢者に限定していない。そうした中、詐欺からの高齢者保護が立法趣旨であることを法律の序文で明確に示す州法(メイン州)や、後述するように、法文上で60歳以上を高齢者と定義し直接的な規制を導入する州法(アーカンソー州等)も存在するが、多数ではない。
ここで、2点の留意が必要である。第1に、高齢者は相対的に暗号資産取引の経験が少ない層に属するため、新規利用者を既存利用者より手厚く保護する規制設計は、間接的かつ結果的に高齢者保護として機能する。第2に、各州には高齢者保護に関する一般的な強行法規が存在しており、暗号資産ATMを利用した金融詐欺は、今回整理している暗号資産ATM規制法のみならず、一般法規でも規制される。
ライセンス取得義務
ネブラスカ州法は、「暗号資産ATM運営者は、資金移動業者法(Nebraska Money Transmitters Act)上のライセンスを取得しない限り、暗号資産ATMを運営できない」としている。また、暗号資産ATM運営者に対して、すべてのATM設置場所リストを規制当局に提出し、更新する義務を課している。
他州の州法を眺めると、ネブラスカ州法と同様に、各州の資金移動業者法上のライセンス取得を義務付ける州(メイン州等)や暗号資産事業者としてのライセンス取得を義務付ける州(ルイジアナ州)など、規制方法は実に区々である。もっとも、暗号資産ATM運営者に対する州レベルでの監視・監督を導入・充実していくとの方針は各州ともに共通している。また、すべての暗号資産ATMの設置場所リストを当局に報告・更新し、場合によってはそれを一般公開する義務(カリフォルニア州等)を負わせるなど、高い監視・監督を課す州も存在する。
なお、MSB (Money Services Business) に該当する暗号資産ATM運営者は、連邦法である銀行秘密法 (Bank Secrecy Act) に基づき、FinCEN(金融犯罪取締ネットワーク)への登録が義務付けられている。ただし、FinCENへの登録はあくまでマネーロンダリング対策(AML)を主眼としており、消費者保護を主眼とする州法とは立法趣旨が異なっている。
法定開示事項および警告表示義務
ネブラスカ州法は、暗号資産ATM運営者に対し、取引条件や暗号資産のリスクを、顧客が選択した言語で明確かつ理解しやすく開示し、顧客の承諾を得ることを義務付けている。さらに、詐欺の典型的な手口や、暗号資産取引が不可逆であることを内容とする警告文言の例文を法定し、運営者にそれらを強調して表示することを求めている。
他州の州法もネブラスカ州法と同様であり、法定開示事項および警告表示義務を規定している。警告文言の必要的な要素のみを規定する州(コネチカット州等)もあるが、大多数の州では、警告文言の例文を具体的に法定している。文字のフォントサイズまで規定する州も存在している(ルイジアナ州等)。こうした中、アリゾナ州法は、約250ワードに及ぶ2種類の警告文言を逐語的に法定したうえで、「背景とコントラストをなす字体で警告文言を別々に掲示し、利用者がこれらの開示に同意しなければ取引できない」と厳密に定めている。
利用者サポートサービス導入義務
ネブラスカ州法は、暗号資産ATM運営者に対し、平日7時から21時まで対応可能なフリーダイヤルによる顧客サービスを提供することや、その電話番号をATM本体または画面上に明示することを義務付けている。
他州の州法も、利用時間などサービス内容には差異があるものの、多数の州においてネブラスカ州法と同様の利用者サポートサービスの設置を義務付けている。特に、アリゾナ州法は、運営者に対し「週7日、24時間」の利用者サポートサービスを義務付けている。
なお、アーカンソー州法等での規制は特徴的である。同州法では「新規利用者」である「60歳以上の高齢者」に対して、取引完了前にオペレーターが直接口頭(音声)で会話し、録音・取引内容の確認・詐欺の説明を行い、会話の結果に基づき取引可否を判断するよう求めている(Live Screening)。これらは自動化された暗号資産ATM運営者にとっては極めて高い障壁となる。
取引限度額設定義務
ネブラスカ州法は、暗号資産ATMによる1日あたり取引限度額を設定している。当該暗号資産ATM運営者との最初の取引実行時を起点として「14日間」の利用者は「新規利用者」と定義され、上限は2,000米ドル/日、その後の利用者は「既存利用者」と定義され、上限は10,500米ドル/日としている。
他州の州法も、取引限度額を設定するが、「新規利用者」と「既存利用者」を区別して限度額を設定する州(モデルⅠ)と、一律に限度額を設定する州(モデルⅡ)に分かれている。調査対象とした州法においては、モデルⅠを採用する方が多い。
モデルⅠの場合、ネブラスカ州と同様に「新規利用者」は2,000米ドル/日、「既存利用者」は10,500米ドル/日と同程度の水準の限度額を採用する州が最も多い(アリゾナ州等)。「新規利用者は2,000米ドル/日と法定する一方、既存利用者の上限は「連邦法を遵守したうえで、各運営者が決定する」という折衷的な規制も存在する(ミネソタ州)。
ここで、「新規利用者」の定義が、各州法によりかなり多様であることは重要である。まず顧客登録時を起点とするのか、あるいは最初の取引実行時を起点とするのかという起算点が異なるほか、そこから「72時間」(アーカンソー州等)、「7日間」(コロラド州)、「10日間」(アリゾナ州)、「30日間」(アイオワ州等)など期間設定の長短も一様ではない。「最初の3回の取引または、アカウント開設から7日間のいずれか早い方」というかたちで、取引回数を要件とする州(イリノイ州)も存在する。
モデルⅡの場合、1,000米ドル/日から3,000米ドル/日まで、各州で区々であり、標準形を見い出しがたい。複数の州(カリフォルニア州等)で導入されている1,000米ドル/日は最も制限的な規制と言える。
なお、「1,000米ドル/日かつ、累計で10,000米ドル/30日」というかたちで「累計」の概念を導入して制限を設ける州(サウスダコタ州等)も存在する。
返金請求権・取消権
暗号資産ATMによる詐欺被害者に対する取消権・返金請求権は、今回整理している暗号資産ATM規制法において、最も特徴的な制度設計である。
ネブラスカ州法は、暗号資産ATM運営者に対して詐欺被害者への返金義務を規定している。すなわち、「新規利用者」が詐欺により取引を行った場合、その利用者が取引後30日以内に運営者および法執行機関(または州銀行金融局)へ詐欺被害を通知し、返金を求めたときには、運営者は手数料を含む全額の返金を行わなければならない。他方、「既存利用者」が30日以内に詐欺被害を届け出て返金を求めた場合、運営者には手数料部分のみの返金義務が課される。
他州の州法を眺めると、かなりの多様性が窺われるが、本稿では大きく5つの類型に整理する。
(モデルA)階層保護モデル(イリノイ州等):「新規利用者には全額返金を認めるが、既存利用者には手数料のみの返金を認める」というモデルである。新規利用者を手厚く保護しつつ、既存利用者にも一定の返金救済が認められる。なお、運営者等に対する通知期間は州により区々である(例えば、バーモント州法では、運営者との最終取引等から90日間以内)ほか、「新規利用者」の定義も各州で多様である。
(モデルB)新規限定保護モデル(アーカンソー州等):「初回取引または新規利用者には全額返金を認めるが、既存利用者には一律に返金義務を課さない」というモデルである。このモデルでは、暗号資産ATMの利用登録から72時間未満の者とするなど、総じて「新規利用者」の定義が制限的である。
(モデルC)一律保護(全額返金)モデル(サウスダコタ州等):「新規利用者であれ既存利用者であれ、一定の条件下で全額返金を認める」というモデルである。
(モデルD)一律保護(手数料限定)モデル(メリーランド州):「新規利用者であれ既存利用者であれ、一定の条件下で手数料のみの返金を認める」というモデルである。
(モデルE)取消モデル(ルイジアナ州):「暗号資産ATM運営者に、72時間の待機期間を設けるか、72時間以内なら詐欺に限定されず無条件で「取消と全額返金」を認めるか、いずれかの義務を課す」というモデルである。詐欺を要件としない点で法律構成がモデルA~Dとはまったく異なる点が特徴的である。消費者保護としては極めて強力であるが、反面、暗号資産ATM運営者に対する負担が過大と言わざるを得ない。
設計された法的な「摩擦」
各州法における暗号資産ATMに関する高齢者保護として、①ライセンス取得義務、②法定開示事項および警告表示義務、③利用者サポートサービス導入義務、④取引限度額設定義務、⑤返金請求権・取消権、を主要な共通設計として取り上げた[2]。これらの主要な共通設計は、不可逆性、常時稼働性、非対面性という暗号資産ATMの技術的な特徴を法的に打ち消している。換言すれば、暗号資産ATMを利用した送金の技術的な特徴に対して、設計された法的な「摩擦」を導入していると評価できる。
すなわち、①ライセンス取得義務は、ガバナンス的摩擦となる。運営者を当局の監視・監督下に置き、以下の義務の実効性を担保するための前提として位置付けられる。そのうえで、
②法定開示事項および警告表示義務は、認知的摩擦となる。高齢者をはじめとする利用者に合理的な判断を行うための機会を与えることで、「心理的要因×常時稼働性」のリスク削減を企図している。
③利用者サポートサービス導入義務は、人的摩擦となる。第三者(オペレーター)との接触を強制的に介在させることで、「社会的要因×非対面性」のリスク削減に対して直接働きかける。
④取引限度額設定義務は、量的摩擦となる。1日あたりの送金額を制限することで、「翌日以降まで待たせる」という強制的な冷却期間を作り出している。これにより「心理的要因×常時稼働性」のリスク削減を企図している。
⑤返金請求権・取消権は、時間的摩擦となる。州法ごとに法律構成は異なるものの、法的な可逆性を付与し、技術的な不可逆性を打ち消すことで、事後的な救済可能性を確実に向上させ、「制度的要因×不可逆性」のリスク削減を企図している。
これらは、摩擦が機能する時間軸で整理することもできる。
第1層は、運営主体へのブレーキであり、監督的摩擦と言える。これには、①ライセンス取得義務が含まれる。
第2層は、取引プロセスへのブレーキであり、介入的摩擦と言える。これには、②法定開示事項および警告表示義務(認知的摩擦)、③利用者サポートサービス導入義務(人的摩擦)、④取引限度額設定義務(量的摩擦)が含まれる。
そして第3層は、結果の確定へのブレーキであり、救済的摩擦と言える。これには、⑤返金請求権・取消権(時間的摩擦)が含まれる。
設計された法的な「摩擦」
| 主要な共通設計 | 設計された法的な摩擦 | 削減されるリスク | |
| ライセンス取得義務 | ガバナンス的摩擦 | 監督的摩擦 | ― |
| 法定開示事項および警告表示義務 | 認知的摩擦 | 介入的摩擦 | 心理的要因×常時稼働性 |
| 利用者サポートサービス導入義務 | 人的摩擦 | 介入的摩擦 | 社会的要因×非対面性 |
| 取引限度額設定義務 | 量的摩擦 | 介入的摩擦 | 心理的要因×常時稼働性 |
| 返金請求権・取消権 | 時間的摩擦 | 救済的摩擦 | 制度的要因×不可逆性 |
(出典)筆者作成
結びに代えて
現時点でのわが国における暗号資産ATMの普及状況に鑑みれば、暗号資産ATMに関する高齢者保護規制を検討することの意義に疑問を持つ見解もあり得よう。しかし、そうとは考えない。将来的にわが国でも暗号資産ATMが普及する可能性があり、そのための準備という意義もあるが、むしろ、広義の「デジタル金融」に関する示唆や、「デジタル金融に関する高齢者保護法制」に関する示唆があると考えるからである。前編で紹介した様々な詐欺事例をみると、わが国における通常の銀行ATMを用いた詐欺の手口と本質的に類似したものも多く、わが国の現状に対しても米国の高齢者保護規制のあり方は参考になろう。
わが国における暗号資産に関する規制は大きく変化しようとしている。(金融審議会暗号資産制度に関するワーキング・グループ, 2025)。資金決済法において規律されてきた暗号資産は、今後、金融商品取引法において規律されることとなる。こうした中、本稿で取り上げた米国の暗号資産ATM規制からの日本法への示唆については、学術論文となる別稿において整理していきたい。
[1] Storrs (2026)で暗号資産ATMに関する法律が成立済みとされた州(2026年3月27日現在)。具体的には、アーカンソー、アリゾナ、カリフォルニア、コロラド、コネチカット、アイオワ、イリノイ、インディアナ、ルイジアナ、メリーランド、メイン、ミネソタ、ミズーリ、ノースダコタ、ネブラスカ、オクラホマ、ロードアイランド、サウスダコタ、バーモント、ワイオミング。
[2] これらに準ずる重要な共通設計について、1つだけ言及するとすれば、手数料限度額の設定義務が挙げられる。ネブラスカ州法では、暗号資産ATMの手数料総額を取引額の18%以内に制限する。限度額を設定する他州の州法を眺めると、「手数料総額は、5米ドルと取引額の15%の大きい方を超えてはならない」といった規定を持つ州(カリフォルニア州等)が目立つ。一方で、サウスダコタ州のように3%という極めて低水準の基準を持ち出す州もあり、手数料規制の強度にも州ごとに幅が見られる。
参考文献
AARP (2025), Nebraska Cryptocurrency Scams on the Rise, https://www.aarp.org/states/nebraska/nebraska-cryptocurrency-scams-on-the-rise/
AARP (2026), Protecting Consumers from Cryptocurrency Kiosk Scams, https://www.aarp.org/states/nebraska/protect-consumers-from-cryptocurrency-kiosk-scams/
Storrs, Carina, AARP (2026), States Take Aim at Crypto ATM Fraud, https://www.aarp.org/advocacy/crypto-atm-fraud-protections/
金融審議会暗号資産制度に関するワーキング・グループ (2025), 金融審議会暗号資産制度に関するワーキング・グループ報告, https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20251210/01.pdf