RWAの現状、今後と法規制

創・佐藤法律事務所 弁護士

斎藤 創

はじめに

 現実の資産(Real World AssetRWA)の価値や所有権に紐づいたトークン(以下「RWAトークン」という。)の発行が、世界的に注目されている。また、我々のような弁護士に対して、RWAトークン発行に関する法律問題の相談がされることがある。

 本書では、まずRWAトークンの事例を説明し、次に適用されうる法律について解説し、最後に今後の課題について述べる。

RWAトークン化の実例とメリット


アート作品のRWAトークン化[1]

 RWAトークンの例として、アート作品のトークン化がある。例えば、海外のフリーポート(Freeport)という会社は、アンディ―・ウォーホル等の作品を分割してトークン化して販売している。

 同社が当初販売したアンディ・ウォーホルの作品は4作品であり、「マリリン(Marilyn)」(1967年)、「ダブルミッキー(Double Mickey)」(1981年)、「ミック・ジャガー(Mick Jagger)」(1975年)、「理由なき反抗(ジェームス・ディーン)(Rebel Without A Cause [James Dean])」(1985年)となっている。各作品は10,000トークンで構成され、1人あたり10トークンから購入可能となり、コレクションのウェブサイトによると、トークン化された各ロットの販売開始価格は、250ドル(約33,271円)~860ドル(約114,453円)となった。

 アート作品をRWAトークン化するメリットだが、著名アーティストの作品を購入したい場合、数千万円~数十億円の金額が必要となり、富裕層でないと購入できない。それに対し、絵画を分割して販売することにより、より多くのアートファンが購入を行い、所有の喜び、鑑賞の機会、将来の値上がり益の期待等を得ることができる。


アルコールのNFT

 アルコールの樽のトークン化の事例も存在している。日本の会社であるUniCask社は、ウイスキーの樽を分割した権利をNFT化して販売している。ウイスキーはワインと同様に熟成することにより価値が上がる。

 ウイスキーの価格が期間経過により上昇する理由としては、貯蔵の管理コストが必要となること(場所代、人件費、その他管理コスト)、期間中投資資金を回収できないことによるコストに加え、ウイスキーの性質として貯蔵により毎年一定程度の蒸発があること、希少性、などがあると言われている。

 大手企業の場合、熟成に要する管理コストや資金コストを負担できる場合もあるものの、小さな醸造所の場合には、このようなコストに耐えられない場合がある。

 UniCaskでは事前に樽の権利を分割してNFT化して販売することにより、販売する醸造所にとっては早期の資金調達をしながら熟成を行う機会が、ウイスキーの愛飲家にとっては所有の喜び、熟成後まで待って飲む楽しみ、期中の定期的な一部試飲の機会、自分で飲まない場合には転売による値上がり益の期待、などが見込める。

UniCask スキーム図

UniCaskのスキーム図[2] 

出所)日本ブロックチェーン協会セミナー資料


高級宿泊施設のRWAトークン化

 宿泊施設の利用権のトークン化の事例として、Not A Hotel NFTというものがある。

 NFTではないNOT A HOTELは、所有物件をアプリで手軽に、自宅や別荘、ホテルに切り替えて運用できるサービスであり、ユーザーは1棟まるごと購入するか、もしくはシェア購入(年10日・年30日)によって、物件を保有する。

 NOT A HOTELNFTは、より安い金額でNFTを購入してメンバーシップ会員になることにより、1日単位(例えば年に1/2/3泊を47年分)でNOT A HOTELの物件に宿泊できるサービスとなる。

 当該宿泊施設を47年間利用することができる権利のNFTは、法的には前払式支払手段として組成されているため、原則払戻しができないものの、NFTとなることにより、NFTNFTマーケットプレイスで売却したり、友人に贈ったりすることができ、メンバーシップNFTを保有している人限定のイベントに参加できる[3]。なお、メンバーシップNFTの内訳は宿泊券(前払式支払手段)が80%、登録料が20%との整理がされており、NFTの対価全額を前払式支払手段としていない。


ゴールドのRWAトークン化

 現実資産に紐づいたトークンが暗号資産として販売された例として、ゴールドのトークン化であるジパングコイン(ZPG)がある。

 ZPGは、三井物産デジタルコモディティーズが発行する暗号資産である。ZPGは、インフレヘッジ機能など金(ゴールド)の特性を備え、デジタル化による利便性と小口化を実現した国内初のデジタルゴールドといえる暗号資産であり、概ね金(ゴールド)価格に連動することを目指す商品で、仕組みとしては下記のとおりとなっている。

ZPGのスキーム図

ZPGのスキーム図

出所)ジパングコイン公式サイト https://www.zipangcoin.com/au

 仕組みとしては、①三井物産デジタルコモディティーズ社(以下「発行者」という。)がZPGを発行する場合、ZPGの移転と同時に、(利用者に代わってZPGを購入した)デジタルアセットマーケッツ社のために、ZPGの数量と同等の金現物を、調達資金を用いて三井物産社から購入、②当該購入した金現物は、デジタルアセットマーケッツ社へ販売すると同時に、デジタルアセットマーケット社から発行者が消費寄託を受ける、③ZPGは金現物の消費寄託に関する引渡請求権を表象するが、ユーザーはZPGを持っていても現物の金の引渡しを請求できない、④しかし、マーケットメーカーであるデジタルアセットマーケッツ社が金の市場価格に近似した価格でZPGを購入することを約束している(なお、かかる請求権には銀行保証が付される)、⑤デジタルマーケッツ社がZPGを有する場合、発行者にZPGと同数の金現物の引渡しを要求できる、という仕組みで、1ZPG1単位の金と限りなく近い価格になるように組成されているようだ。

RWAトークンと日本法

  RWAトークンと日本法の整理については、筆者の法律事務所のBloghttps://innovationlaw.jp/rwa-token/ )、及び筆者もドラフターとして参加した日本暗号資産ビジネス協会NFT部会の資料( https://cryptocurrency-association.org/policy/20240404-001 )が詳しいが、それらの記載を元にすると、下記のような点の検討が必要となる。

RWAトークンに適用されうる金融規制と主要な規制のチャート

出所)日本暗号資産ビジネス協会NFT部会の資料

主として適用される法律のまとめ

金融規制

1 暗号資産法(資金決済法)

 RWAトークンが暗号資産に該当する場合、その販売等には暗号資産交換業の登録が必要となる。
 概ね(1)決済手段として使用することを禁じていること、及び(2-1)発行枚数が100万枚未満であること、又は(2-2)取引価格が1000円以上であること、を満たす場合には、一般に暗号資産ではなくNFTであると考えられており、そのような場合には規制が適用されない。
 他方、ゴールドをトークン化したジパングコインのように、暗号資産として組成することも考えられる。

2 金商法

 RWAトークンが有価証券に該当する場合、その販売には第1種金商業の登録が必要となる。
 例えば、RWAトークンに配当や100%以上の元本償還があるような場合、集団投資スキーム(ファンド)=有価証券に該当する可能性が高くなる。
 事業者が現実資産を利用して収益を上げ、その収益をトークンホルダーに分配する場合や、事業者が現実資産を売却し、その売却益をトークンホルダーに分配するようなスキームでは、集団投資スキーム該当性について慎重な検討が必要となる。

3 前払式支払手段

 現実の資産を取得したり利用したりすることができる権利のトークンを形で発行する場合、前払式支払手段として資金決済法の規制対象となる可能性がある。
 発行者やその密接関係者のみで使用できる自家型前払式支払手段の発行者は、発行から6か月の有効期限があるものや、一定の基準日において未使用の残高が1,000万円以下であるものを除き、財務局長への届出及び発行保証金の供託等が必要になる。それ以外の第三者型前払式支払手段の発行者は、発行から6か月の有効期限があるものを除き、財務局長への登録等が必要になる。

4 為替取引規制

 トークンが、例えば円やドルなどの通貨に紐づいており、資金の移動のために使用される場合、為替取引の規制が適用される場合がある。ただ、RWAトークンで、このようなスキームとなる例は現時点では存在しないと思われる。

金融規制以外の規制

5 預託等取引法

 RWAトークンのスキームにおいて物品や物品に関連する権利の預託を受け、それに関連して、利益の供与を約束したり、物品等の買取を約束する場合、預託等取引法の適用が問題となり、その販売等には内閣総理大臣の事前確認等が必要になることがある。
 収益配当や元本償還を約束する場合又は類似の仕組みがある場合、金商法もしくは預託等取引法、又はその両者が適用されることがないか、検討する必要がある。

6 倉庫業法

 ユーザーから預託を受けた物品を倉庫で預かり、当該物品に係る権利を表章するトークンを発行する、というスキームの場合、倉庫業法の検討が必要となる場合がありえる。具体的には、預かった現物資産に係る権利を表章するRWAトークンを発行する場合、当該RWAトークンが倉庫業法上の倉荷証券に該当するときは、当該RWAトークンの発行には国土交通大臣の許可が必要となる 。

7 古物営業法

一度使用された物品(鑑賞的美術品を含む)を、営業として売買し、又は委託を受けて売買する場合、古物営業法の適用がありえる。古物営業法の適用がある場合、警察への届け出が必要なほか、ユーザーの本人確認等が必要となる。
 但し、分割化した権利として販売している場合には、古物営業法は適用されない可能性がある。

8 裏付資産に関連するその他の法律

 例えば、不動産の小口化商品なら宅地建物取引業法と不動産特定事業法など、アルコールの販売の場合には酒類販売業の免許など、物品に関連する法律が適用されることがある。

権利の移転と対抗要件

9 RWAトークン移転による権利の移転と対抗要件

 RWAトークンでは、トークンの移転に伴いいかなる権利の移転がなされるのか、対抗要件はどのように備えるのか、検討を要する。トークン移転に伴い動産の所有権の移転があり、かつブロックチェーン上の記録で指図による占有移転がある、という考え方や、トークンの移転に伴い利用権や引渡請求権が旧トークンホルダーの元では消滅し新トークンホルダーの元で発生する等の考え方がありえる。

RWAトークンと今後、課題

 RWAトークンの市場は拡大しているが、統計等でRWAトークンとして上げられる金額には不動産セキュリティートークンなどのSTの金額も含まれており、金額の主要部分はSTなのではとも推測される。

 また、諸外国でのRWAトークンの議論を見ると、例えば国債のトークン化、社債のトークン化、MMF(マネーマーケットファンド)のトークン化など、RWAトークン=有価証券であることを当然の前提として議論しているものも見受けられ、日本でのRWAトークンの議論と若干、差異が存在するようにも思われる。

 RWAトークンについては、NFTのブームが一段落したことから、STNFTの名前を書き換えて新たなバズワードを作ったにすぎない、という批判も存在している。

 このような批判も一定程度は理解できるものの、他方、例えば仮想通貨やブロックチェーン、NFTDeFiなどの用語を纏めてWeb3という用語ができたように、市場が拡大したからこそ新しい用語ができ、新しい用語ができたことにより更に市場が拡大する、という好循環のケースもまた存在しよう。

 現実資産をトークン化することにより、移転を自由化・効率化する、小口の投資を可能とする、スマートコントラクトやDeFi等で利用可能にする、という流れは今後ますます拡大していくであろう。

 日本でも、現実資産のトークン化を促進するためにはどのような問題があるか、例えば規制に過不足はないか、トークンの移転に伴って現実資産の権利の移転を同時に行うために現在の民法の対抗要件制度が障害になっていないか、それらの改訂の必要性がないか等、検討することが望ましいと思われる。特に対抗要件の法整備を行うことは、日本法をRWAトークンの準拠法にするインセンティブを世界中に与えると思われ、検討が望ましい。

 

[1] SHANTIESCALANTE-DEMATTEI、「ブロックチェーン上でウォーホル作品の共同所有権を提供。NFT不況の中で船出した新興企業、フリーポート」、https://artnewsjapan.com/article/1034、及び髙橋知里、「アート分割投資のフリーポート、ウォーホル作品を証券トークンに」、https://www.neweconomy.jp/posts/306673を参考に記載。

[2] UniCaskについては、同社の日本ブロックチェーン協会セミナー資料を参考及び出典として記載。https://jba-web.jp/cms/wp-content/uploads/2021/10/UniCask-whisky-x-NFT.pdf

[3] 「NOT A HOTELとは?NFTの購入方法や利用方法を解説!」https://diamond.jp/crypto/nft/not-a-hotel/を参考に記載。