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次世代デジタル金融の実現に向けパブリックチェーン技術に回帰する金融機関の最新動向

はじめに

 次世代デジタル金融の実現に向け、各国の中央銀行や金融機関はブロックチェーンが持つ耐改ざん性を取り入れつつ、高い秘匿性や高スループットなどが期待できるCordaHyperleger FabricHyperledger Besuといったコンソーシアムチェーン及び周辺技術の実用化に向けて研究開発を推進してきた。

 金融機関が遵守するルールやサービス要件などの観点から見ると自然な潮流であり、現在でもコンソーシアムチェーンを活用したプロジェクト(Onyx by J.P. MorganProgmatなど)がまだ多くを占める。

 しかし、この潮流は昨年から変わり始めている。パブリックチェーン領域で技術の改善を継続し運用実績を積み上げてきたプロジェクトが、各国の主要金融機関とパートナーシップを結び始めており、その勢いが加速してきているのだ。この変化は国内ではまだあまり見られておらず、このままでは採用する規格や技術の違い、または技術発展スピードの違いなどによって、我が国が世界の潮流からふるい落とされ、デジタル金融化の波に乗り遅れる懸念がある。

 本レポートでは、コンソーシアムチェーンを中心とした金融機関の取り組みの現在に至るまでの歴史的な流れを展望したうえで、上述のような最新の動向を俯瞰してみたい。

パブリックチェーンとコンソーシアムチェーン

 ブロックチェーンと聞くと、まずBitcoinEthereumが思い浮かぶのではないだろうか。これらはパーミッションレス(ノード参加、アプリケーション構築、アプリケーション利用などが自由)な特性を持つパブリックブロックチェーンと呼称される。本レポートでは技術的詳細は省略するが、このパーミッションレスな性質を持ちつつ、パブリックチェーン上に記録された情報を改ざんする事が事実上不可能であるという耐改ざん性を、一つの台帳システムとして両立させている点がイノベーションであろう。

 これらパブリックチェーンの性質により、Bitcoinという暗号資産やEthereum上のUniswap(分散型取引所)やAAVE(分散型融資)、ステーブルコインといったDefi(Decentralized finance)アプリケーションが生まれ、数百兆円という市場が創出された。

crypto top20 coins by market cap in history

出所 Coin Market Cap

 しかし、このパーミッションレスの性質はいくつかのトレードオフを持つ。例えば、Ethereumでは、取引処理スピードが数十TPSと遅い、取引内容が公開されるというプライバシー問題、運営主体が特定の国や機関に依存しないため準拠すべき規制が不明瞭などであり、既存の金融機関にとっては許容し難い問題であった。

 そこで、これらEthereum等が持つ耐改ざん性は活かしつつ、前述の課題を軽減するように設計されたブロックチェーンとしてコンソーシアムチェーンが2016年頃に出現した。代表的なチェーンとしてはCordaや、Hyperleger FabricHyperledger Besuなどがある。コンソーシアムチェーンは、ノード・アプリ等の参加者をパーミッションド(許可制)にするといった制約により前述の課題を軽減し、パブリックチェーンとは異なる発展を進めてきた。

 一方、2020-21年頃にDefiアプリケーションがガバナンストークンを発行し始めたことを契機に、大規模な資金がパブリックチェーン市場に流れ込む ”Defi Summer” と呼ばれる成長期を迎え、競争環境の激化とともに技術革新が加速し、前述の課題を技術で解決し始めるという現象が生じた。具体的な技術例としては、レイヤー2CDKChain Development Kit)、ゼロ知識証明TEE(Trusted Execution Environment)の活用等がある。これらの技術を活用することで、処理スピード、プライバシーなどの問題が軽減可能となり、金融機関の要件を満たすブロックチェーンやアプリケーションを効率的に構築することが可能になってきた。

 さらに、今後実現されるであろう技術革新も考慮すると、コンソーシアムチェーンというエコシステムの中で独自に技術発展させるよりも、オープンで大規模な資金流入が期待されるパブリックチェーン領域での技術発展を取り込んだ方が、高いリターンが期待できるという判断が支持を得られるようになってきた。

 この状況を俯瞰する際の重要なキーワードの一つが、「マルチチェーン相互運用性」である。

マルチチェーンと相互運用性

 前項で触れた通り、金融機関の要件を満たすブロックチェーンやサービスをパブリックチェーン領域で進化した技術の活用によって効率的に構築することが可能になってきた。

 この技術的な進化に伴い予見されているのがマルチチェーン化の加速である。マルチチェーンとは、アプリケーションや運用主体単位で異なるブロックチェーンが構築され、その結果、数千・数万というブロックチェーンが運用されている状態を表す。例えば、各国でステーブルコインチェーンやデジタル証券チェーンが多数乱立するといった状態を指す。

 マルチチェーン化が加速する世界においては相互運用性の実現方法が課題となる。相互運用性が適切に実現されていないと各チェーンが孤立し、実現可能なユースケースを制限してしまう。例えば、証券決済はステーブルコインチェーンとデジタル証券チェーンが連携して初めて実現可能になる。伝統的なシステムでは、決済指示や照合確認などをやり取りするシステムにより証券インフラと資金決済インフラが通信することで、両システムの整合的な連動が図られている。こうした相互運用の必要性はブロックチェーン基盤で構築されたシステムにおいても同様である。従って、相互運用性はマルチチェーン化が進む次世代デジタル金融において非常に重要な技術基盤となる。

 これらの状況を事業機会として捉え、パブリックチェーンの技術を積極的に取り入れながら相互運用性に取り組んでいるのがSwiftJ.P. Morganなどである。

取組事例

 SwiftはChainlinkという分散型オラクルプロジェクトと連携し、パブリックチェーンとコンソーシアムチェーン間を跨ぐトークンの転送をテストしている。トークン発行は米国現物株式・公社債の清算決済機関として寡占的な地位を占めているDTCCDepositary Trust Clearing Corporation)により実行されている。

 Chainlinkは分散型オラクルとしてトークンの価格情報等を暗号資産取引所などから取得し、Defiアプリケーションなどへ提供する役割を担っている。Chainlinkは、このオフチェーンのデータをオンチェーンへ連携するという知見を発展させ、CCIPというブロックチェーン相互運用性プロジェクトを新たに展開し、本取組みが実現している。(下図)

 J.P. Morgan(ONYX)はAxelarLayerZeroといったパブリックチェーン領域で主要な相互運用性プロジェクトと連携し、ProvenenaceAvalancheといったチェーンを跨ぐアセットのポートフォリオマネジメントをテストしている。これらのチェーンはパブリックチェーン技術によって構成されている。

 今後、技術発展の恩恵に伴い、限られたコンソーシアムチェーン上だけではなく多様なチェーン上で膨大なアセットが発行・管理されるようになると、それらを自在に売買し所有の移転を迅速、効率的かつ安全に行うためのソリューションに対する需要が増大してくる。そして、こうした潮流や需要を知見として獲得し、次世代デジタル金融の発展、さらには自社ビジネスの成長に貢献するため、パブリックチェーン領域で発展を続けている技術やプロジェクトを取り込む動きが出てきている。この変化は今後加速していくと想定され、技術的にはコンソーシアム・パブリックといった境目はなくなり、パブリックチェーン側の技術を各金融機関が取り込む流れが中心となっていくと考えられる。

 上述の事例の他にも、クレジットカードビジネスの巨人であるVisaSolanaというパブリックブロックチェーン基盤と連携を強めていたり、別の例ではDefiアプリを規制に準拠可能な形で展開するといった取組事例なども指摘できよう。

まとめ

 各国の主要金融機関は次世代デジタル金融のインフラやアプリケーションを構成するために、パブリックチェーン領域で進化を続ける基幹技術やプロジェクトと連携することを選択し始めている。

 国内の事例ではProgmatIBC(The Inter-Blockchain Communication protocol)というパブリックチェーンで代表的な相互運用性規格を取り入れた取り組みをDatachainと行っているが、このような取り組みは非常に限定的である。

 わが国のステーブルコイン関連法案の整備やセキュリティトークン市場の立ち上がりは世界をリードしている領域であり、これらを強みに世界のデジタル金融化を再度リードできる可能性は十分ある。しかし次世代デジタル金融を支えるインフラやアプリケーションを構築していくという観点では、より先進的な技術を理解し、自社ビジネスに取り込むというスタンスが国内の金融機関にも求められ始めている。そして、現在のホットスポットはパブリックブロックチェーン領域にある。各金融機関は独自の進展を進めてきたコンソーシアムチェーン領域からパブリックチェーン領域で発展する技術に回帰することを求められているのではないか。

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