令和6年度税制改正(暗号資産関連)の振り返り
2つの改正ポイント
令和5年12月14日に自由民主党・公明党から「令和6年度税制改正大綱」が公表され、同22日に政府において「令和6年度税制改正の大綱」が閣議決定された。令和6年度税制改正における暗号資産に関連する改正内容は大きく2つで、ひとつは「第三者保有の暗号資産の期末時価評価課税からの除外」、もうひとつは「非居住者に係る暗号資産等取引情報の自動的交換のための報告制度の整備等」である。これらの改正の概要は次のとおりである(「令和6年度税制改正の大綱の概要」財務省HPより)。
- 第三者保有の暗号資産の期末時価評価課税からの除外
譲渡についての制限その他の条件が付されている暗号資産の期末における評価額は、原価法または時価法のうちその法人が選定した評価方法により計算した金額とするほか、所要の措置を講ずる。
- 非居住者に係る暗号資産等取引情報の自動的交換のための報告制度の整備等
OECDにおいて策定された暗号資産等報告枠組み(CARF:Crypto-Asset Reporting Framework)に基づき、租税条約等により各国税務当局と自動的に交換するため、国内の暗号資産取引業者等に対し非居住者の暗号資産に係る取引情報等を税務当局に報告することを義務付ける制度を整備する。
第三者保有の暗号資産の期末時価評価課税からの除外
議論の対象は、法人の期末時価評価課税である。すなわち、市場で活発に取引されている暗号資産(市場暗号資産)を法人が期末に保有している場合には、当該暗号資産(市場暗号資産)を時価で評価し評価損益を益金又は損金の額に算入する制度である。
令和5年度税制改正では特定自己発行暗号資産(発行者が発行時から継続して保有する一定の暗号資産)については期末時価評価課税の対象から除外されたが、この内容だけではWeb 3ビジネスのエコシステムの発展に繋がらないとする声があった。自民党デジタル社会推進本部Web3プロジェクトチーム(Web3PT)では令和5年度税制改正大綱の公表の後に「web3 政策に関する中間提言」を公表し、他社が発行するトークンのうち短期売買目的でないものを期末時価評価課税から除外する措置を講ずるべきとされた。この点につき令和5年の年初からWeb3PTにおいて議論が進められ、同年4月に「web3ホワイトペーパー」として同様の内容が提言されている。
並行して業界団体においても令和6年度税制改正について議論が行われた。筆者が所属する日本暗号資産取引業協会(JVCEA)は日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)と連名で要望を取りまとめるべく議論を進めた。JVCEAとJCBAが取りまとめた税制改正要望の内容は、期末時価評価課税の改正要望のほか、所得税の20%分離課税・損失繰越や相続税関連の要望が含まれており、7月に要望が取りまとめられ公表された。また、日本ブロックチェーン協会(JBA)や新経済連盟(JANE)においても検討がなされ、団体間での議論・調整も行われ、JBA・JANEからもそれぞれ要望が公表された。これらの業界団体のほか、日本経済団体連合会(経団連)、日本商工会議所の提言・意見にも暗号資産に関する要望が盛り込まれている。
この間、政府において6月に「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2023改訂版」が閣議決定され、「第三者が短期売買目的以外で暗号資産を継続的に保有する場合を、他の暗号資産の保有と区別して取り扱うことが可能かどうか、法令上・会計上の在り方を含め、速やかに検討する」との文言が盛り込まれた。
各団体からの要望や政府の閣議決定を基に、金融庁や経済産業省における要望の内容が精査された。「2023事務年度金融行政方針」では「発行体保有分以外の暗号資産について、法令上・会計上のあり方を含め、税制上の扱いを検討する」とされ、8月末に財務省に対し金融庁及び経済産業省から「法人(発行者以外の第三者)の継続的な保有等に係る暗号資産について、期末時価評価課税に係る見直しを進める」とする令和6年度税制改正要望が提出された。
省庁間での議論が行われる中、各業界団体では政治への働きかけも活発に行われた。10月末から11月にかけて自民党の政策懇談会、ブロックチェーン推進連盟、Web3PTの会合に出席して税制改正の必要性を訴えた。
このようなさまざまな動きを経て、与党における年末の税制改正のとりまとめの議論が行われ、令和5年12月12日に与党において、そして同22日に政府において税制改正が取りまとめられたのである。
今回の措置においては「譲渡についての制限その他の条件」が付されている必要があり、その内容は①他の者に移転できないようにする技術的措置がとられていること等その暗号資産の譲渡についての一定の制限が付されていること、又は②その制限が付されていることを認定資金決済事業者協会において公表させるため、その暗号資産を有する者等がその制限が付されている旨の暗号資産交換業者に対する通知等をしていること、である。JVCEAはこの認定資金決済事業者協会に該当し、この措置の適用のために一定の役割を果たすことが求められている。
非居住者に係る暗号資産等取引情報の自動的交換のための報告制度の整備等
税の透明性 (tax transparency) を確保するための税務当局間の情報交換の取組みの実施・検討は、かねてよりOECDにおいて行われており、大きな動きとしては2014年の共通報告基準(CRS:Common Reporting Standard)の導入があった。これは非居住者の金融口座情報を各国の税務当局間で自動的に交換する枠組みである。
日本でもこれに対応した税制改正が平成27年に行われた。その後も暗号資産の取引情報の把握について引き続き議論が行われ、今回のCARF(前述)の実現に至っている。2022年8月末に最終的なルール及びコメンタリーがOECDで承認され、10月のG20に報告された。2023年6月に各国での統一的な適用に資するための実施細目等が公表されている。多数の国でCARFを2027年までに実施することが示され、日本もこれにあわせて今回の改正に至ったという経緯がある。CARFの導入とあわせてCRS(前述)についても報告事項を拡充する改訂が行われており、今回の税制改正大綱においてもCRSの改訂に対応するための内容が盛り込まれている。
なお、EUにおいてもCARF同様の仕組みを域内で実施するため、税務当局間で相互協力を行うEU指令の第8次改正指令(DAC 8)が2023年に制定され、今後の実施が見込まれている。
日本における改正法令の施行は令和8年1月1日からであり、国内の暗号資産交換業者等は同年12月31日までに利用者の居住地国等の情報を特定し、以後各年末の報告対象者の取引情報等を翌年4月30日までに税務当局に提出しなければならない。
今後に向けて
令和5年度及び6年度の税制改正により、法人税における期末時価評価課税について一定の譲渡制限等を要件として自己保有及び他者保有の市場暗号資産が対象から除外された。業界にとっては大きな変化であり、今後のweb3関連ビジネスの発展が期待される。引き続き法令の細目の改正について注視するとともにビジネスの実態など必要な情報のインプットに努めたい。また、JVCEAが業界の団体として税制改正を要望していた項目は、期末時価評価課税における短期売買目的以外の市場暗号資産の除外、所得課税における20%分離課税、資産課税などがあり、これらについても引き続き改正を求めていきたい。なお、会計上の取り扱いとの整合性を求められる項目もあり、法令改正を要するもののほかにも活発な市場の意義など実務上の取り扱いの明確化が求められるものもある。会計の取り扱いも含め、引き続き関係各所に働きかけて対応を求めていきたい。