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NFT は本当に「唯一無二」と言えるのか? -NFTの信頼性を高める一つの方法の提案-

はじめに

 NFTNon-Fungible Token)とはデジタルデータが、「替えが効かない唯一無二のものであること」を「ブロックチェーン技術を利用して証明」する技術であると説明される。その実体は、ブロックチェーン上で発行・流通するデジタルデータの一種で、暗号資産に類似したものであり、対象となるデジタルデータのトランザクション履歴、すなわちオーナーシップの変更履歴にかかる情報を追跡できることから、所有者証明書のようなものとして機能する。

 NFTは、デジタルアート、音楽、ビデオゲーム、仮想土地、デジタル会員権、デジタルチケットなど、様々な分野で利用されているほか、新たなユースケースが模索され続けており、WEB 3の重要な要素としても限りない可能性を秘めている。

 2017年、著名なアーティストやクリエイターによって制作されたアートやコレクティブを対象とするNFTが販売されると価格が急騰、一時は数百万ドルの価値で取り引きされるものが続出するなど盛り上がりを見せた。NFT総取引額の推移を見ると、2019年にピークを付けたのち、暗号資産の冬の影響等もあって一頃の勢いはなくなったが、今でも一定の取引額が成立し続けている。真に芸術的な価値があるものへの選別等が進んでいるように見え、環境が回復すれば、まだまだ市場規模は拡大するとの見方をする人も多い。

NFTは本当に「唯一無二」と言えるのか?

 NFT市場からバブル的な要素(値上がり期待が現在の価値を正当化する根拠となっている状態)が幾分抜けて、価格が落ち着いているのには、NFTの本源的な価値への評価が見直されていることがあろう。すなわち、芸術的な価値、簡単にはまねできない希少価値といったものが認められないデジタルデータをいくらNFT化したところで転売利益期待がない限り誰も欲しがらないということである。また、NFTが実現する機能に対する過剰な期待が萎み、NFTの課題が見えてきたところもあろう。その一つが「NFTが替えの効かない唯一無二のものである」という誤解である。

 NFTが対象とするデジタルデータは、技術的にもコスト的にも完全なコピーが容易であるうえ、オリジナルもコピーも全く同じデータであるために区別もできない。NFTによっても、全く同じデータが複数存在する状態自体を解消することはできないが、ブロックチェーンに書かれたトランザクション履歴を見ることによって、現時点における正当な所有者が誰であるかを証明することができるため、正当な所有者の持つデータがオリジナルであると皆に認識され、NFTによってデジタルデータの売買が可能となっている(図1のとおり、NFTの中に現時点での所有者アドレスを格納するとともに、対象データを一意に特定可能になっている)。

 しかしながら、「NFTが替えの効かない唯一無二のものである」というのは性善説に基づいた幻想である。すなわち、マナーを守らないコンテンツの作者が、同じデジタルデータに対し偽って複数のNFTを発行したり、悪意を持った第三者がインターネット上等から勝手にダウンロードした他人のコンテンツのデジタルデータを無断でNFT化して販売する、といった不適切な行為が想定されうる(図2参照)。同じデータに対し複数のNFTが存在しうるのに「替えが効かない唯一無二」と言えるのであろうか。

(図1)NFTおよびメタデータと対象データの関係

(図1NFTおよびメタデータと対象データの関係

(図2)同じデータに対し複数のNFTが作成可能

NFTは何を売買していることになるのか?

 さらに言えば、NFTを売買することが、どのような意味を持つのかが曖昧なことも多い。デジタルアートを構成するデジタルデータは無体物であるため,民法上の所有権の客体にはなり得ず、現行法のもとでは所有権の売買との説明は成り立たないとの説に異論を唱える声は聞かれない。

 では、所有権ではないとすればNFTの売買とは何なのであろうか。所有を証明することで「自慢できる」「うらやましがられる」「満足できる」といった特別な経験ができることに価値があり、「所有感」こそが売買の対象であるとの見方もできなくはないが、多くのNFTの売買は著作権(財産権)の一部としての展示権等を売買していると予想される。しかし、そこで売買の対象としているのが、どのような条件の下でどのような形での利用を認める権利なのかが明示されていることは稀でありはっきりしない。NFTを売買するマーケットプレースの約款に記されていることもあるが、約款が強制的に表示されるわけではないし、どこを確認したらよいかもわからない。そもそもマーケットプレースを介さない売買も可能であり、その場合、約款は適用されなくなる。

NFTを「唯一無二」のものとするための工夫

(悪意を持った人が意図的に)同じデータに対し複数のNFTを作成することは、技術的に避けられないが、同じデータに対して複数存在するNFTのうち、どれが正当なものであるかを識別できるようにすることは工夫次第で可能である。今回、著作権保護技術として従来から利用される電子透かしを応用したひとつの方法を考案したため、その概要を紹介する。なお、イーサリアム上のNFTの場合、「ERC721」「ERC1155」「ERC4907」などの標準規格に従って発行されるが、今回紹介するのは、これらの標準規格から外れるものではない。あくまでも、NFTが対象とするデータに加える工夫である。その方法のエッセンスを挙げると、以下のとおりである。

(図3)オリジナルデータと販売用データを区別

  • オリジナルのデジタルデータは著作者が秘匿管理し、NFT化して販売するデジタルデータには電子透かしを埋め込むことで、見た目に影響を与えない(知覚できない)かたちで改変を加えて区別する(図3参照)。
  • 電子透かしで埋め込むのは、正規のNFTを特定できるに十分な情報(以下NFT識別子と呼ぶ)であり、「コントラクトアドレス」と「トークンID」を含む(必要に応じ「ブロックチェーン名」)。
  • NFTから参照されるメタデータの中に、売買の対象となる利用許諾内容等を記述する。

 以上の工夫によって、インターネット上等に掲載されているコンテンツデータに電子透かしとして埋め込まれたNFT識別子を元に、対応する正規のNFTを一意に特定できる。そのため、NFTに関連づいた情報(メタデータ等)にアクセスすることが容易となり、コンテンツデータの所有者や、取引の対象となる権利(利用許諾等)の内容等を確認することが可能となる(図4参照)。

(図4)NFTおよびメタデータと対象データの関係(今回考案の工夫後)

(図4)NFTおよびメタデータと対象データの関係(今回考案の工夫後)

まとめ

 今回の考案により、NFT、電子透かし、NFTへのリンク(NFT識別子)といった技術を組合わせる工夫により、コンテンツデータとNFTを双方向に一意に特定可能にした(一対一の関係が悪意ある発行者のもとでも厳密に成立するようにした)。これによって、不正なNFTを排除し、コンテンツデータに対応する正当なNFTを特定することができるため、現時点での正当な所有者を確認できることとなった。以上の成果は、発明として特許出願中であるほか、学会の場で研究報告[1]も行っている。

 もっとも、今回のアイデアは、NFTの信頼性を高めることに繋がる一方で、従来に比べて一定の手間が生じることも事実である。したがって、必ずしもすべてのNFTに実装することを求めるものではなく、特に高い信頼性を持ったNFTが要求されるケース、例えば信頼性の高さを売りにするNFTマーケットプレースが差別化を図ろうとする場合などコストパフォーマンスを考慮しながら採用の是非を考えることが適当であろう。

 NFTは、ユニークで価値のあるアイテムの真正性を検証する役割として極めて存在意義が大きいものであり、アートやコレクティブルを超えたより広範な用途として、例えば現物資産(RWA)のNFT化の分野でも注目されている。さらに、今後WEB3やメタバースへ統合され、進化するデジタル経済に不可欠なものとなっていく可能性もある。その場合、NFTの信頼性がユースケースに対して十分と言えるのかきちんと評価し、必要に応じNFTの信頼性を高める工夫を(今回の方法に拘らず)施すことも必要となろう。


[1] 中山靖司、「NFTの信頼性を高める仕組みについて ~NFTの課題とその解決~」、電子情報通信学会 技術と社会・倫理研究会(SITE)、信学技報, vol. 123, no. 246, SITE2023-66, pp.114-118, 202311月

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