2023年6月26日

デジタル金融の新たなステージに向けて -生成系AI時代に必要な視点-

株式会社イノベーション・インテリジェンス研究所社長

幸田 博人

はじめに

 「FinTech」や「DX」という用語を、日常当たり前のように聞くようになって、既に7~8年の期間が経過した。足元、社会全体に大きなインパクトを生じさせている生成系AIについても、一気に浸透してきた。今回の生成系AIChatGPTは大規模言語モデル(LLM)を有し、人間のみが行うことは何かということが問われはじめた。2020年代に入り、日本の人口減少・シニア化の加速、カーボンニュートラルなどの大きな社会課題と、企業のサステナビリティがリンクしている中、企業は、生成系AIや様々な新しいテクノロジーを組み込んだビジネスモデルへと変化せざるを得ない。中でも、金融業にとって、生成系AIのインパクトは大きく、金融とFinTechの融合の時代に、こうした新しいテクノロジーを金融内部に組み込みつつ、人材産業・ネットワーク産業ともいうべき金融業そのもののあり方を変革していかざるを得ない。

FinTechの歩みと3つのステージ

 FinTechという用語は、2013年頃からかなり使われるようになった。そこから最近までのFinTechの歩みを、筆者としては3期に分け認識[1] している。第1期は2013年~2016年のFinTech黎明期、第2期は2016年~2019年のFinTechの浸透期、第3期は2020年~2023年のFinTech成長と見直し期とした。このステージ分けを前提に、特に、暗号資産関係を中心とした広義のデジタル金融も含めて理解をすると、第2期で第1次ビットコインバブルがあり、第3期で第2次バブルと崩壊、更にはWeb3(Web3.0)の萌芽もあったこともあわせて見ておく必要があろう。特に、第3期は、FinTechの成長と同時にその取組みに限界が見え、また暗号資産を巡る様々な見直しや揺り戻し、Web3などの新しいテクノロジーを前提にした枠組みも萌芽と低迷が見てとれる。いわば混迷の中での新しいチャレンジをどう作り出していくかの模索状況とも見てとれる。生成系AIが金融業のプロセスに組み込まれ融合していくことで、次の第4期に入っていくこととなろう。

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デジタル金融の文脈で考えるFinTechの3つの視点

 デジタル金融を、FinTechという新しいテクノロジーを通じて行う金融サービスだと理解するとして、今後のFinTechの道すじを3つの視点で考えたい。

 第1の視点は、既存金融業に係る「アンバンドリング」の重要性についてあらためて認識することである。金融サービスを機能毎に分解して、「アンバンドリング」を行うことで、制度面や非金融からの「エコシステム」的なアプローチがFinTechを通じて可能となる。顧客との接点、金融サービスの開発、新しい金融商品の提供など、それぞれ機能ごとのアンバンドリングが、一気に進んでいる。こうしたことで、非金融の様々な業種との連携が可能となり、非金融業種も金融の個別サービスとのリンケージをつけやすくなり、新たな付加価値が形成されている。例えば、銀行が銀行自身のデータに基づく与信リスク判断が、個人のトータルなライフスタイルやライフプランとリンクしてクレジットを判断することに置き換わるなどのユースケースがある。この「アンバンドリング」を通じて、非金融業種の金融サービスに対するハードルは格段に下がり、今後は、非金融からの顧客(特に個人)接点が中心軸になってこよう。

 第2の視点は、新しいテクノロジーを活用して、新しい金融を作りだすという視点である。特に、ブロックチェーンを基盤とした「分散型金融(DeFi)」である。仲介者不要、ノンストップサービス、トレーサビリティの減少など、既存の金融にはなしえない新しい特徴がある。今後の方向性として、既存金融業はデジタルサービスを組み込んだ金融サービスとなっていく中で、そこに「分散型金融」を、商品面やサービス面でリンケージさせていくことで、金融の新たな地平線も見えていくこととなるのではないかと認識している。

 第3の視点は、金融機関の本来的な社会性や公共性との関係である。デジタル金融を通じて、日本の社会課題、人口減少・高齢化問題、地方の縮小均衡、イノベーション、地球温暖化、働き方、格差対応などの社会課題に本格的に取り組むという視点である。この点については、既存金融機関と非金融である事業会社との連携やコラボレーションがポイントで、データ分析やAI解析なども行いつつ、社会課題解決型の新しいビジネスや金融サービスにおける付加価値を創りだすという視点が大事であろう。非金融事業者としては、金融サービスをどこまでサステイナブルに提供できるか、また、金融業者と非金融業者との間には、ビジネス上の壁や文化の違いがあり、どう乗り越えていくかが問われている。最近、金融と非金融のジョイントベンチャー方式が苦戦し挫折しているケースも出てきていることから、どういう機能分担を両者の専門性の下で担うか、つきつめていくことが重要と考える。

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おわりに:テクノロジーの急速な進展の下での「リテラシー」について

 SBI金融経済研究所が最近行ったアンケート(「次世代金融に関する一般消費者の関心や利用度に関するアンケート調査」)は、「リテラシー」の観点からも、大変興味深いものである。日本、米国、英国、ドイツ、中国、韓国の6か国の個人のデジタル金融資産(暗号資産など)投資について、日本のデジタル金融資産の関心や投資経験は、諸外国との対比で低位である。ベースの「金融リテラシー」が、世界の中で高くない日本においては、当然ともいえよう。「金融リテラシー」を向上させて、その上で、投資経験を積み、更にデジタル金融資産を広げていくことが正攻法であることを示唆している。個人は、一般的には、経験(含む過去の「学び」)に基づいて判断することから、個々人の十分な経験に裏打ちされていないことや、それぞれ個人の専門的エリアとの関係が薄い場合は、何らかの手立てが必要となる。テクノロジーの進展がデジタル金融の可能性を大きく広げており、日本においてデジタル金融への理解をどう進めるか、難しい課題だ。これこそ産官学連携の下で、デジタル金融の歩みに停滞を起こさないように知恵を絞ることが必要であり、デジタル金融のあり方やデジタル金融リテラシーに係る産官学連携フォーラムのような場が広がることが望まれる。


[1] 幸田博人編著『DX時代の日本企業の戦い方』(中央経済社、2023年)の第11章「FinTechの進展と投資動向」(村上隆文)でのFinTechのステージは、黎明期(2010年~2012)・勃興・転換期(2013年~2015)・発展期(2016年~)という記載(同書215P)あり。筆者は、村上隆文氏の発展期にあたるところを、2つのステージに分けて認識したもの。

(参考文献)
SBI金融経済研究所「次世代金融に関する一般消費者の関心や利用度に関するアンケート調査」(202212月)
・籠宮信雄・村松健「誰がデジタル金融資産に投資をしているのか~SBI金融経済研究所によるアンケート調査結果から~」(SBI金融経済研究所 所報vol.3・2023年2月)
・幸田博人編著『DX時代の日本企業の戦い方』(中央経済社、2023年)