2023年1月31日
2023年度税制改正(暗号資産関連)の振り返りと今後の展望
2022年の暗号資産業界は、価格の下落や市場の低迷、アルゴリズム型ステーブルコインの価格暴落、国際的に活動する大手暗号資産業者の破綻などがあり、暗号資産及びその周辺にとって冬の時代crypto winterと呼ばれるように非常に厳しい環境であった。しかし、暗号資産関連の税制にとっては大きな流れの第一歩となる動きがあったといえる。以下では、2023年度税制改正の議論において2022年にどのような動きがあったのかを振り返り、その議論や結果を踏まえた今後の展望につき期待も込めて私見を述べたい。
Ⅰ 2023年度税制改正(暗号資産関連)の概要
2023年度税制改正における暗号資産関連の税制改正のうち主なものは、一定の自己発行暗号資産が期末時価評価課税の対象から除かれたことである。2022年12月23日に閣議決定された令和5年度税制改正の大綱には次のように記載されている。
三 法人課税
5 その他
(5) 暗号資産の評価方法等について、次の見直しを行う(次の②の見直しは、所得税についても同様とする。)。
① 法人が事業年度末において有する暗号資産のうち時価評価により評価損益を計上するものの範囲から、次の要件に該当する暗号資産を除外する。
イ 自己が発行した暗号資産でその発行の時から継続して保有しているものであること。
ロ その暗号資産の発行の時から継続して次のいずれかにより譲渡制限が行われているものであること。
(イ)他の者に移転することができないようにする技術的措置がとられていること。
(ロ)一定の要件を満たす信託の信託財産としていること。
② 自己が発行した暗号資産について、その取得価額を発行に要した費用の額とする。
③ 法人が暗号資産交換業者以外の者から借り入れた暗号資産の譲渡をした場合において、その譲渡をした日の属する事業年度終了の時までにその暗号資産と種類を同じくする暗号資産の買戻しをしていないときは、その時においてその買戻しをしたものとみなして計算した損益相当額を計上する。
④ その他所要の措置を講ずる。
Ⅱ 改正にいたった経緯
2022年は以下のように年初から2023年度税制改正に向けた動きがあった。
① 1月に自由民主党デジタル社会推進本部に設置されたNFT政策検討プロジェクトチームにおいてweb3やNFTについて精力的に議論がなされ、3月に「NFTホワイトペーパー(案)」が公表された。その中では暗号資産やNFTに関する規制や税制についても問題点が指摘されていた。
② 6月には「経済財政運営と改革の基本方針2022」(いわゆる骨太方針)が閣議決定され、ブロックチェーンや0、NFTについての記述や暗号資産審査基準の緩和等の記述がなされた。
③ 日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)と日本暗号資産取引業協会(JVCEA)は、年初からの税制改正要望についての議論を経て、8月に要望を公表して金融庁・経済産業省に提出した。
④ 両団体からの要望を受けて、金融庁や経済産業省から財務省(主税局)に対して提出された2023年度税制改正要望に暗号資産に係る期末時価評価課税の見直しが盛り込まれた。なお、日本ブロックチェーン協会(JBA)や新経済連盟からも税制改正要望が公表されたほか、日本経済団体連合会、日本商工会議所、経済同友会から公表された税制改正に関する意見等においても暗号資産税制の見直しに言及されている。
⑤ 11月の第490回企業会計基準委員会における議論として、暗号資産の発行者が発行時に自己に割り当てた暗号資産のうち発行による対価を受領しておらず自己で完結していると考えられるものについては第三者との取引が生じるまでは時価では評価されないとする議事概要が公表された。
⑥ JCBAにおいて自由民主党のweb3プロジェクトチームの会合や予算・税制等に関する政策懇談会に出席して要望内容を説明し意見を述べるとともに、日本ブロックチェーン協会や新経済連盟と協力して関係議員に個別に説明を行った。11月には、デジタル社会推進本部web3PTから「web3関連税制に関する緊急提言」が示された。
⑦ 自民党税制調査会で他の税制改正項目とあわせて議論がなされ、12月16日に令和5年度税制改正大綱が決定された。与党の税制改正大綱を踏まえ、12月23日に政府において令和5年度税制改正の大綱が閣議決定された。
Ⅲ 今後の展望
① 2023(令和5)年度税制改正の詳細
本稿執筆時点では2023年度税制改正の法律案の内容はまだ明らかになっていないが、今後国会に法律案が提出され、3月末には下位法令(施行令・施行規則)も公布されて明らかになる。下位法令では法律よりも具体的な実務に影響する部分が多く定められることから、その制定に向けて業界として税制当局に対して具体的な情報の提供を行っていきたい。
② 2024(令和6)年度以降の税制改正に向けた要望
2024年度税制改正以降に向けて次の2つを進めていきたい。なお、これら2項目は昨年12月に自民党デジタル社会推進本部web3PTにより公表された「web3政策に関する緊急提言」でも提言されている。
i 発行者以外の法人が保有する暗号資産の期末時価評価課税
今回の改正では自己が保有する暗号資産について対象から除くこととされたが、発行者以外の法人が保有する暗号資産についても短期売買目的でないものは対象から除くのが適切である。2022年8月にJCBA・JVCEAが公表した2023年度税制改正要望においても同様の考えを示している。
ii 個人の分離課税
個人が保有する暗号資産に対する課税について、暗号資産の取引により生じた損益は20%の税率による申告分離課税の対象とし、暗号資産にかかる損失の所得金額からの繰越控除を引き続き要望したい。岸田政権における資産所得倍増や貯蓄から投資へといった政策目的からは、適切な投資対象であれば上場株式等といった他の金融商品と同様に分離課税の対象となることもあり得る。適切な投資対象である暗号資産とそうでない暗号資産を区別し、適格な暗号資産は分離課税の対象とすることも考えられる。
③ 税務当局への協力
「Crypto Asset Reporting Framework(暗号資産に係る報告枠組み)」がOECDで議論され昨年の10月にG20に報告された。これは、各国の税務当局が自国の暗号資産取引業者に非居住者の暗号資産取引に係る情報を報告させ、その情報を非居住者が居住する国の税務当局に提供するという国際的な税務情報の交換の仕組みである。我が国においても2024年度税制改正において国内実施のためのルールが制定されると考えられる。
④ まとめ
このように、2024年度以降においてもこれまで行ってきた税制改正の要望を引き続き行うとともに、適正な課税のために業界として税務当局に協力することが求められる。いずれにしても、業界に対する信頼性の向上がなければ税制改正の実現に国民の理解を得ることは難しい。そのために業界における不断の努力が必要であることはいうまでもない。これらと並行して、税制改正に向けた活動を進めていきたい。