2023年1月31日
「一点物」でないNFT活用のススメ ─「共感」を広げる媒体(メディア)としての利用法
NFTを活用したふるさと納税の返礼品
2022年は暗号資産、そしてNFTにとって厳しい市場環境の年であった。しかし、地方自治体ではNFTを活用した地域活性化の取り組み、特にふるさと納税の返礼品への活用事例が相次いだ(表)。多くの場合、地域の名産品や景勝地、文化遺産などを個性的なキャラクターと組み合わせてイラストにし、個数限定の返礼品として寄付金を募っている。地域の認知度やイメージの向上、地域に対する「ファン」の形成などの狙いもあるようだ。人気のあるゲームやNFTコレクションのキャラクターなどとコラボレーションしたものもあり、ふるさと納税制度により実質的な負担額が軽減されることもあってか、提供開始と同時に申し込みが殺到する事例も少なくないと聞く。
NFTの留意点
文字、画像、音声、動画──いずれもデジタルデータになると、完全なコピーが容易になる。通常、完全なコピーが複数ある場合、それらを区別することは難しい。しかし、NFTというデジタルの「名札」、「番号札」を紐づけることで、個々のデジタルデータを特定することが可能になり、唯一無二の「一点物」として販売することが近年活発に行われてきた。
NFTのトークン自体はブロックチェーンの仕組みを活用しており、不正な複製(偽造)や改ざんは困難だ。しかし、多くの識者が指摘するとおり、紐づけられるデジタルデータはブロックチェーンの仕組みの外側にある、より一般的なwebサーバ等で保管されており、管理の状況次第では、不正な複製や改変、削除、すり替えが困難であるとは必ずしも言えない。NFTのトークン自体は「唯一無二」であっても、紐づけられたデジタルデータは「一点物」ではない可能性もある。デジタルデータの特性を踏まえれば、むしろコピーを完全に防ぐことは難しいのが実状だ。
「一点物」、「限定品」への拘りがもたらすもの
「期間限定」、「個数限定」という謳い文句に購買意欲を煽られる、という話はよく耳にする。購入者として「一点物」や「限定品」にどのような価値を見出すか、見出さないかは人それぞれで、他者がとやかく論じるべきものではないだろう。
一方、提供者としてはどうだろう。例えば、あなたがアーティストで、自分の作品を世に出したときに、(ア)「一点物」としてオークションを勝ち抜いた一人の人に高額で購入してもらったのは良いのだけれど、その後は購入者が自宅に私蔵(死蔵)してしまう(注1)場合と、(イ)(高値では買ってもらえなかったものの)公の場で公開するなどして、広く大勢の人にみてもらい、それら大勢の人から評価してもらう場合とでは、一体どちらの方がより嬉しいと思うのだろうか(注2)。前者では、購入者がつけた高額の価格に、作品そのものの評価だけでなく、「一点物」に限定されていること──所有欲、占有欲を満たすこと──の評価も含まれている可能性も考えられるのだが、、、
情報の特性
そもそも「データ」すなわち「情報」は、「複数の人が同時に消費できる財・サービス」という「非競合財」の典型だ。そうした情報──知識や知恵を共有しながら、人類は社会や文明を発展させてきた。
ただ、情報の伝達(複製と運搬)には相応にコストや技術的な困難が伴っており、文字や紙、印刷技術や電信・電話、蒸気機関や原子炉の発明等々、人類は様々に工夫を凝らし、努力を重ねてそうした課題に取り組んできた。そして現代のデジタル技術とインターネットは、情報の伝達を劇的に容易なものにした。ひとたびインフラが構築され、入出力用のデバイスとその利用方法の知識が入手できれば、情報の複製・運搬コストは極小であるし、情報伝達をより効果的なものとするうえで非常に重要な要素──人と人の間の時間距離を飛躍的に短縮している。
「一点物でない」、「限定品でない」NFT活用のススメ
NFTは言うまでもなくデジタル技術やインターネットを基盤としている。だとすれば、情報──データを「限定する」よりも「広める」方がそれらの特性をより活かしたものになるだろう。一体どういう活用方法が考えられるだろうか。
アイディアの一つは、NFTを広く「共感」を募る媒体(メディア)として活用することだ。あるアーティスト、あるスポーツチーム等を応援し、その活躍を願う「想い」、ある地域社会の活性化、そこに住む人々が元気に暮らしていくことなどを願う「想い」、人に優しく、環境に優しい事業活動を願う「想い」、そうした様々な「想い」への「共感」を募るツールとしてNFTを活用するのだ。「想い」を言葉で語ることはもちろん重要だ。しかし、テーマソングやチームカラー、チームフラッグなどに代表されるように、音楽や画像・映像を用いた訴えかけは、言葉を超える共感・感動を端的にもたらす可能性を秘めている。簡単に言ってしまえば、NFTに紐づくデジタルイラスト等を、「想い」を同じくする人たちの、「仲間の証」、「会員証」にしてしまうのだ。
先に、デジタルイラスト等は不法に複製されるリスクから逃れることが難しい、という話をした。ならば、文字通り「唯一無二」のNFTのトークンを保有者の身分証として、そのトークンにデジタルイラストだけでなく、発行者と保有者の様々なやりとり、サービスを重ねて複合的、重層的な「会員証」にすればどうであろう。
NFTを販売して得た資金をもとに生産した人に優しく、環境にも優しい製品を、NFTの保有者に配布したり、NFTを発行した組織体の運営等に対する提言・助言を行う権利をNFTの保有者に付与したり、──「会員証」がデジタルイラストの保有にとどまらない、様々な価値、とりわけ「共感」される「想い」を具体化したもの等をもたらすものになればよい。実際、こうした取組みはすでに随所でみられている。デジタル技術やインターネットをより上手に活用すれば、世界に向けて「共感」を募り、さらにそれを高めていくことができる。NFTにも、今後、そうした活用事例が一層増えていくことを期待したい。
(注1) ちなみに、NFTに紐づくアート作品などは、NFTの売買契約とは別にそのアート作品に関する著作権の利用許諾を得ない限り、勝手に公開したりすることは違法になる恐れがある。
(注2) 勿論、作家の創作活動の対価をどう確保するかは別途の重要な問題である。また、本稿は違法コピー等の正当性を主張するものでは決してない。
【表】NFTを活用した地方自治体の取組み
─ ふるさと納税の返礼品への活用
(2022年4月~2023年1月)