2022年6月27日

暗号資産の取引に係る課税方法について

日本暗号資産取引業協会 参与(前事務局長)

安河内 誠

 暗号資産の取引に係る税が大きな話題になったのは、2017年に資金決済法に暗号資産が定義されて消費税が非課税とされ、その年末にかけてビットコインの価格が高騰したときであった。その際、国税庁から仮想通貨の取引に係る所得税の取扱い(雑所得で総合課税)を含むFAQが公表され、その後毎年更新されている。また平成31年度税制改正では法人税において期末時価評価損益が課税対象とされた。
 このように暗号資産の取引に係る税の議論は所得課税が中心だが、暗号資産の実態等からは、その取引に係る所得の把握は本人にとって困難であるとともに税務当局にとっても捕捉が困難であり、申告納税になじみにくい。申告納税が難しいとすれば、これに代わるものとして、暗号資産の取引が行われたときに一定の税率で税を徴収し納付する仕組みもあり得る。この点、かつて株式の取引に係る税について行われた議論及び制度の変遷が参考になる。

 株式の譲渡については、昭和28年に譲渡益に対する所得税が原則として非課税とされ、同時に、有価証券の売却額に一定比率で課税される有価証券取引税が導入された。
 平成元年に、株式の譲渡益に対する所得税が課税されることとなり、あわせて有価証券取引税の税率が引き下げられた。所得税の課税は、譲渡益に対し一律20%(地方税6%)による申告分離課税と、譲渡価額の5%をキャピタルゲインと見なして国税のみ20%の税率(つまり譲渡価額の1%)で課税する源泉分離課税とのどちらかを取引ごとに選ぶ制度であった。源泉分離課税は申告に慣れない一般の株主への配慮として導入されたが、利益が多く出た場合にこれを選択すれば売却額の1 %で納税が完了してしまうため、不公平との批判があった。また、当時、株価が低迷を続ける中で有価証券取引税や取引所税に対する批判も強かった。
 平成6年ごろより、金融・証券市場の空洞化を論拠として、有価証券取引税の廃止・縮減論が高まっていた。この点に関し、政府税制調査会の「平成7年度の税制改正に関する答申」では、金融・証券市場の空洞化として指摘されている諸現象は税の問題のみに結び付けて考えることはできない、有価証券取引税の性格からその廃止については証券税制全体の中で検討を深めていくことが適切、とされた。
 平成8 年の総理指示「我が国金融システムの改革~2001年東京市場の再生に向けて~」では金融システムの改革の必要性が強調された。平成9 年、政府税制調査会に金融課税小委員会が設置され「金融課税小委員会中間報告」がまとめられた。報告では、取引課税の廃止について思い切って廃止の方向を示すべきであるといった意見がある一方で、「株式等譲渡益課税について申告分離一本化といった適正化が実現されない中で取引課税のみを廃止することは適当でない」「金融のグローバル化に伴い所得の捕捉が困難になっていく中では、取引課税にはむしろ税体系及び税収面から一定の意義が認められる」「金融システム改革全体の動向を見極め、税収面からの費用対効果を検証し、株式等譲渡益課税の適正化状況を踏まえていく必要がある」といった意見があったとしている。
 平成10年度改正では、平成1041日から有価証券取引税及び取引所税の税率を半分の水準に引き下げ、平成11年末までに、金融システム改革の進展状況、市場の動向等を勘案して見直し、株式等譲渡益課税の適正化とあわせて廃止することとされた。
 平成11年度改正では、有価証券取引税・取引所税について当初の「平成11年末までに廃止」の予定を早めて平成114 月から廃止する一方、株式等譲渡益課税の申告分離課税への一本化を2年後の平成13年度より実施することとされ、有価証券取引税・取引所税の廃止と申告分離課税への一本化が、一体的な証券税制改革の中で行われた。

このように、株式に係る税は、取引課税と譲渡益課税が、同じ株式という金融資産の移転に伴う税として一緒に検討されてきた。最終的に取引課税の廃止と申告納税への一本化という結論に至ったが、取引課税の有用性についても議論されており、取引課税のような課税方法を所得課税として位置づけることもできると考えられる。
暗号資産取引は、取引所を通じて行われるものとそうでないものがあるが、KYC等の要請から取引所を通じた取引を促進するという観点があるならば、取引所を通じた取引には取引所に取引税の納税義務を課して利用者に申告納税を求めないとすることが考えられる。加えて、取引所を通じない取引でも、取引のつど一定率の数量を自動的に徴収して納付する仕組みを組み込んだものとして一定の要件を備えたものはその取引に係る所得の申告納税を求めないこととすれば、所得の把握という申告納税の困難さを回避することができ、徴税コストの低減にも資すると思われる。

【参考文献】
平成財政史(財務総合研究所)第4巻第3章第3節
https://www.mof.go.jp/pri/publication/policy_history/series/h1-12/4_3_3.pdf

税制調査会「平成7年度の税制改正に関する答申」、「金融課税小委員会中間報告」
大蔵財務協会『改正税法のすべて』(平成10年、11年)