特別インタビュー:web3時代を迎える日本の課題と成長戦略
平将明衆議院議員(自民党デジタル社会推進本部 本部長代理)に、SBI金融経済研究所理事長である政井貴子がお話を伺いました。(2022年5月25日)
web3時代の到来によって、私たちの生活はどのように変化するのでしょうか。
(平将明氏)
インターネットは、私たちの生活を大きく変えたと思います。Web1.0では世界の情報を自分で獲れるようになり、メールが送信できるようになりました。Web2.0になると、自分から世界へ情報発信できるようになり、ある日突然、スターが生まれたり、ローカルなレストランに世界中からお客さんが集まったりといったようになりました。同時に、プラットフォーマーが情報を、創業者が富を独占する世界となり、SNSなどではフィルターバブルが生じて、立場が違う人たちの間で社会の分断を引き起こすような副作用も出てきました。個人情報保護の問題も出てきています。web3の世界では、情報はプラットフォーマーではなく自分たちのものであり、中心となる運営管理者がいる訳ではなく、ブロックチェーンを利用してみんなで運用する分散型のイメージです。その対価としてトークンが配られるという世界観です。
Web1.0で知識の格差がなくなるかもしれない、世界の人たちが繋がってより良い社会が来るのかと思っていたら、そうでもありませんでした。Web2.0になって、独裁政権の国がいくつか倒れて、民主主義とか自由主義が達成されると思っていたら、社会の分断や富の偏在を生み出していました。そうした中で、ブロックチェーンという技術が出てきて、こうした問題のソリューションとして期待されるという大きな流れが生じています。
今後、世の中は劇的に変わると思っています。例えば、ホテルを証券化して販売するとき、これまでは弁護士や会社が間に入ることでランニングコストが高くなり、一口当たりの投資額もかなりの高額になってしまっていたものが、ブロックチェーンを利用すると圧倒的にランニングコストが安くなり、少ない金額からでも投資ができるようになります。また、国境を越えてお金をやり取りするときのコストがものすごく安くなるので、国境を越えた少額の送金も暗号資産などで簡単にできるようになります。ただ、すべてweb3の世界になるのではなく、Web1.0や2.0の世界は存続し、web3の選択肢もあるという世界です。
また、メタバースの時代になると、人生が、リアルな空間で使う時間と仮想空間で使う時間の両方からなる、パラレルワールドになってきます。今でも、スマホに没入して何かやっているときはデジタル空間で時間を消費しています。そのデバイスがスマホからVRゴーグルになるだけの話です。当初は、様々なメタバースが生まれて、それぞれの世界がつくられますが、そのうちに、こっちのメタバースからあっちのメタバースにいろいろなものを持っていける世界になると思います。VRゴーグルを装着して瞬時に世界中に行って、メタバース上でいろいろな体験をしたり買物をしたりする。その際、暗号資産を使って世界のあちこちで支払いができます。あっちのメタバースでも、こっちのメタバースでも暗号資産は使えます。NFTも多分そうなります。
平 将明氏
SBI金融経済研究所撮影
今回、NFTホワイトペーパーを作成した経緯と、その考え方や問題意識を教えてください。
(平将明氏)
1月に自民党デジタル社会推進本部で平井卓也本部長(前デジタル大臣)からNFT特別担当に指名されました。私がツイッターでそのことを呟いたら、誰にも頼んでいないのに、デジタルに詳しい第一人者の方が専門家を10人ぐらい集めてフェイスブックのメッセンジャーにグループを作ってくれました。ツイッターで呟いただけで、日本最強のブレーンを抱える審議会が瞬時に組成されたのです。従来の審議会であれば月1回の会議となりますが、タイムラインで意見交換をやるので、わずか1週間余りでweb3の生態系や世の中の流れなど必要な論点を理解することができました。まさにウィズコロナでDXになり、世の中の流れが加速度的に速くなっていることを実感しました。全体的なところを網羅できたので、国会議員のプロジェクトチームを組成して、役所の手を借りずにわずか2か月でホワイトペーパーを作成し、3月末に公表しました。こうした手法やスピード感は自民党の歴史始まって以来のことではないかと思います。英語版を作って、きちんと法律のチェックもして、世界にも発信しています。
この問題は世界観が重要で、個別にやっていくと全体を見失ってしまいます。NFTの下には決済を担う暗号資産があって、更にその下にはブロックチェーンというベースがあります。全体をみるとメタバース、DeFi(分散型金融)やDAO(自律分散型組織)があって、こうした生態系の全体をみて規制のデザインをしないといけません。生態系はそれ自体がぐるぐる循環して自己増殖していかないといけなので、目詰まりが起きたり、そこで流れが止まったりしてしまうと壊死が起きてしまいます。NFTをきっかけにweb3全体を俯瞰してみること、また海外の動きがどうなっているのかをみることが大切です。
アメリカでは、3月にバイデン大統領が大統領令を出し、デジタル資産における米国のリーダーシップの発揮を掲げ、web3の世界を本気で獲りに来ています。中央銀行や政府が発行していないデジタルアセットの規模は3兆ドル(日本円で400兆円弱)、このデジタルの世界にいる人が1億2千5百万人ぐらいになっていると言われています。ほぼ日本と同じ経済規模で、さらにどんどん成長しています。そこをしっかりみて、レギュレーションと税制のデザインをしていかないと日本は乗り遅れてしまいます。Web2.0では全く存在感がなくなった日本がこのweb3の流れを逃すと、失われた30年が、失われた40年ではなくて半世紀(50年)になるとの危機感を強くもっています。
社会の変化への対応が速いのは英米法の国です。自動走行やドローン、web3にしても、ルールがなくても法律で禁止されていなければ企業はチャレンジします。何か問題があっても、司法で解決をはかり、その判決が積み重なってルールが作られていきます。一方、日本やドイツのような大陸法の国は規制がきっちりしていて、法律でやってよいと書いていないとグレーゾーンとなり、コンプライアンスでフリーズしてしまいます。より先を見通せる力のある人が前もって法律を作って対抗していかないといけません。全国一律の規制改革ができないのであれば国家戦略特区で対応する、グレーゾーン解消制度を利用する、あるいはレギュラトリー・サンドボックスを利用するといったことを考えて実行できないといけません。日本は変えなくてはいけないことがたくさんあります。そのためには、その前提となる世界観を共有しないといけないと考えています。
現在、日本でもブロックチェーンが大変盛り上がっていますが、完全にセキュアなエコシステムを作ろうとし過ぎている気がします。パブリックチェーンという開かれた仕組みで、メンバーはパーミッションレスで許可なくみんなが入れる、決済は摩擦係数がない暗号資産というのが本来の姿です。日本では、参加者は大企業が中心、パーミッション型のパブリックチェーンでクレジットカード決済というスキームが目立ちます。安全性は増しますが、これではイノベーションによる爆発力が生じません。このままでは多分ガラパゴスになってしまいます。web3の世界観とその本質を見極めて手を打っていく必要があります。
永田町や霞が関の「国内の公平性やレギュレーションを壊してはいけない」という発想はよく分かりますが、日本だけやらないと致命的になります。それが将来の日本の経済や社会保障にどれだけマイナスの影響をもたらすのかといったイマジネーションが働けば、もっと真剣な議論になるはずです。
何パーセントかのアクシデントやインシデントがあったとしても、長い目で見た全体のリターンを考えたときにやらない選択肢はない、ということでしょうか。
(平将明氏)
今は黎明期なので、いろいろな問題は今後起きうると思います。ただ、ブロックチェーン、暗号資産、NFT、さらにはメタバース、DeFi、DAO──私は、本命はDAOだと言っていますが──などによって世の中が大きく変わっていくときに、税制をきちんと世界と横並びにしておかないと、日本に人が全く集まらなくなります。ブロックチェーンの技術者が集まらない、スタートアップも集まらないといった状況の中で、ブロックチェーン時代が本格的に来たときには手も足も出なくなります。少なくともアメリカ、イギリスとは歩調を合わせないと、また取り残されてしまいます。
DAOは株式会社に匹敵する新しい分配の仕組みの発明です。株式会社は資本家と創業者に利益が配分される仕組みですが、DAOはアルバイトの人や非正規の人やお客さんなどみんなにトークンが配られる仕組みです。古い資本主義の主役が株式会社であれば、新しい資本主義の主役はDAOになると思います。アメリカのワイオミング州ではDAO法が制定され、欧州の国でもDAO法の議論が行われており、そうしたところにweb3人材が集まってきています。日本でも、そうしたルールをどこかの県・市町村の条例で制定し、DAOの国家戦略特区として地方創生をやってもらうのがよいと思います。何もしないと人が来なくて取り残されていきます。
政策提言に向けた今後の取組み方針を教えてください。
(平将明氏)
岸田総理は、5月5日のロンドン・シティでの基調講演で、ブロックチェーンやNFT、メタバースなどweb3推進のための環境整備に取り組むことを明言されています。自民党の成長戦略「新しい資本主義の実現のための成長戦略についての提言」にも、ホワイトペーパーの提言内容を盛り込みました。今後、政府の成長戦略や骨太方針に反映され、政府の政策となっていくよう取り組んでいく方針です。web3は国家戦略、ブロックチェーンは成長戦略そのものであるという位置付けの中で、総理のコミットを頂きながら、司令塔を作って省庁横断で前にしっかり進めていきたいと思います。
平将明氏と政井貴子
SBI金融経済研究所撮影